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(人1)side
笑いながら言った彼は、資料の束を私の前に置いた。
「まず、ライト社に投資しましょう。そうですね、可能な限り高い額を」
「ちょっと待って!ライト社は2年前に破産したはずよ?」
「えぇ、そのとおり。でも、数ヶ月に別の会社が入って、経営を立て直しているようです。今投資をしておけば、確実に良い結果を生むかと」
東堂グループが紙くずになったと思い込んでいた8億円分の株式が、今朝の時点で少なくとも4倍の額になっているらしい。
他にも菊池風磨の口からは、次々と的確な戦略が打ち出される。
これほど膨大な情報をどのように集め把握したのだろう、と私は驚かざるを得なかった。
すると、彼はそんな私の心の内を見透かしたかのように、どこか悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「俺の天才話とか、貴女の俺に対する尊敬や感動の気持ちは、とりあえず後回しにしましょう。とにかく今は、早く敵を倒して来て下さい」
誰よりも負けず嫌いなくせに、今回ばかりは私も弱気になっていた。
絶対に負けてはならないのに、最終的にはこのまま成す術もなく引き下がるしかないのか、と。
けれど、菊池風磨という援軍に勝算を与えられて、私はもう一度闘ってみようと思った。
「分かりました。尊敬の念、感動、貴方の自慢話、それからキス。私が勝って戻って来たら、たっぷり清算しましょう」
私はそう告げるとすぐに電話をかけて、(人2)が行う予定の取引を一旦すべて中止させるよう命じた。
「ねぇ、(人1)さん」
書類を片手に立ち上がり、その場を離れようとした瞬間、ふいに名前を呼ばれて立ち止まる私。
「必ず敵をぶっ倒して勝って下さいね。負けたら、帰って来ちゃダメですよ?」
そんな言葉とともに、彼の唇が私の額に優しく触れた。
一瞬、何のことだか分からなかったけれど、やけに熱を持つ額が私の鼓動を加速させる。
「ほら、早く行って来て?俺はここで待ってるから」
彼は至って普通で、余裕な表情を浮かべていて、何だか私だけがドキドキしているみたいで恥ずかしかったけれど。
何故だか、不思議とそれも悪くないと思えた。
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時