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No side
『旅行?最近は会社にも出ていないみたいだし、いいかもね』
『おかげさまで会社にも出られなくなったし、(人2)さんがやろうとしていること、止めようかと思って』
『ふふふ。貴女がどうやって?』
『このリゾートを売らなくても買収費用を手に入れる方法、見つけたんです。偉いでしょ?
遠くまで無駄足でしたね。せっかくだし、観光でも楽しんだらどうです?息子さんと水入らずで』
強気な口調でそう言って立ち去ろうとした(人1)を、(人2)の嘲笑うかのような声が捕える。
『そういうハッタリは、ど素人を相手にかますものよ?例えば……ほら、貴女みたいに若くて、世間知らずで、純真な相手に、ね』
何も返せない(人1)を前にして、(人2)はなおも挑発的な口調で言葉を続けていく。
『前に言ったはずだけど?アンタは私の相手じゃないって。
そうね、アンタが言ってたように、確かに私は目標の半分ぐらいのところまで到達したわ。でも、アンタは私が平坦な道を歩んできたと思ってるんでしょ?
ここに辿り着くまで、世間が私をどれほど阻んで、私がどうやって越えてきたのか、どんなことをして耐えてきたのか、アンタなんかに分かるはずがない。
私には、必ず行きたい場所があるの。どんなことをしてでも必ず行くわ。
私の行く手を阻む者は、例え誰であろうと許さない』
(人2)の言葉が頭の中をループする風磨。
一体何が、彼女をこんなふうに変えてしまったのだろうか、と。
言い表し難い複雑な感情に心を支配されたまま、彼は静かに電話を切った。
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(人1)side
(人2)と別れた私は、母と過ごした思い出の場所、リゾートの離れにあるプライベートの小さな別荘に来ていた。
庭に植えられた木には《(人1)の木》と書かれた札が括り付けられている。
そこには《(人1)が健康でお利口で美しく育ちますように》という母の願いが込められていた。
私は母の形見とも言える あのお人形を取り出して、それを木のそばにある小さなブランコに乗せる。
「大丈夫。絶対に方法を見つけるから。心配しないで」
“大丈夫”という言葉は、母に向けたものであると同時に、自分自身を鼓舞するためのものでもあった。
何としてでも他の方法を見つけなければならない、と。
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時