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No side
「お兄ちゃんも早く(人2)さんのことを忘れて、誰かいい人と付き合って。
さっきの人だって、すごくいい家柄の人みたいだし、本当にお兄ちゃんのことが好きみたいなのに。
どんなに待っていても、(人2)さん、もうお兄ちゃんのところには戻って来ないよ」
平静を装い家を出た風磨だったが、扉を閉めた途端、今言われた言葉が頭を駆け巡った。
物思いに耽る彼のポケットで、携帯が震える。
取り出して、(人1)からの着信であることを確認した彼は、落ち着いた様子で電話に出た。
「どうしました?キスの場所、見つかりましたか?」
どこか悪戯っぽく投げかける風磨に、(人1)からは意外な答えが返ってくる。
『愛のために王座を捨てた人の名前、10人挙げてください』
「………エドワード8世、ピョンガン姫、花より男子の道明寺司、ナンナン姫、シュレックのフィオナ姫、……」
『会いたいです』
いつになく素直な(人1)に、「会いに行くから」と居場所を尋ねる風磨。
『沖縄に居ます。那覇にある 東堂グループ所有のリゾート地。ここは、亡くなった母が大切にしていた場所なんです。
私と母の思い出が残る唯一とも言えるこの場所を、売るみたいなんです。社長と新しい妻が。
私は売却されるのを阻止するために来ました。でも、阻止出来ない可能性は90%』
「成功する可能性、随分と低いんですね」
『えぇ。もしここが売られたら、私は王座から去るつもりです。
まぁ、正確に言えば、追い出されるんですけど。もし私が無一文になったら……』
「来てもいいですよ」
風磨がそう即答してくれたことで、(人1)は何かの決意を固めたようだ。
「昔ながらの古臭い家だけど、部屋ならあります。俺の部屋も、妹の部屋もあるし、友達の部屋だって。
お茶碗も余分にあるし、もちろん布団と枕も」
『OK!じゃあ、その言葉を信じます。諦めた方が良さそうなら、とっとと諦めて、勝ち目が無かったら早めに降参します。
それまでは、私の幸運を祈っていてください』
そう言って、どこかスッキリした表情で立ち上がった(人1)のもとへ、(人2)がやって来た。
『あら、どうしたの?こんなところで』
嫌味っぽく発せられたその声は、受話器の向こうの風磨にも聞こえている。
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時