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(人1)side
中島弁護士がそう言い終えるまで、私は何度も遮ろうとしたが、父は全く取り合ってくれない。
堪らず、私は立ち上がった。
「那覇リゾートは駄目です。絶対に売ったら駄目なんです。あそこは、ママが亡くなる直前まで……」
「彼女を摘み出せ!!」
「お父さん!!」
「ここにお前の父など居ない!会社の命運を賭けて100億円をどう集めるか議論している場で、よくも親のことを口に出来るな。恥ずかしくないのか!!」
私を一喝した“社長”は、那覇リゾートの売却を中島弁護士に進めさせようとする。
「いずれ経営に参加させるつもりだった(人2)に、今回の件を一任しようと思う。どうだろうか?」
そう問われた中島弁護士は、役員たちの前で「能力的にも十分可能で、何の問題もないと思います」と答えた。
分かっていた、気付いていた、全て。
中島弁護士が那覇リゾートの件を持ち出したのは、単なるその場の思いつきではないことを。
きっと彼は最初から、この会議でその話を切り出すつもりだった。
もう長い付き合いだから、彼がどれほど計算高い人間なのかは知っている。
私はどうすればいいだろう。
何をするのが最善だろうか。
そんなことを考えた時、ふと頭に浮かんで来たのは 菊池風磨、彼の存在だった。
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No side
風磨の自宅では、彼が持ち物の整理をしていた。
書き込みだらけの医学書に挟まれていたのは、風磨と(人2)が仲睦まじく写っている写真。
彼はそれを手に取り物憂げな瞳で見つめた後、静かに裏返して本を閉じた。
その頃、自宅には風磨を訪ねて上品そうな女性がやって来ていた。
玄関先にいた(人3)に風磨がいるか聞く女性に、(人3)はどこか複雑な表情を浮かべて、そっと口を開く。
「お兄ちゃん、お金目当てで女の人と付き合うような、悪い男なんです」
「え、何を言っているの?彼は私のこと……」
「これ以上、会わない方がいいと思います。お兄ちゃんのことなんて、早く忘れた方がいいですよ」
(人3)にそう忠告された女性が 泣きそうな顔で立ち去った後、一部始終を聞いていた風磨が玄関先に姿を現した。
兄は出掛けたものだと思い込んでいた(人3)は、一瞬驚いたような表情で彼を見る。
そして、視線を合わせようとしない兄に向かって、言葉を紡いでいく。
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時