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健人side
何故、彼女は自分の身を滅ぼしかねないような秘密を話す相手に、この俺を選んだのだろう。
(人2)さんを家まで送る車のなかで、俺はそのことばかりを考えていた。
何度ワインを勧められても決して口にしなかったのは、社長秘書として、ちゃんと“奥様”を送り届ける為だ。
「着きましたよ、奥様」
「何だか嫌だわ、その呼び方。貴方の家で居た時のように、名前で呼んでくれませんか?」
身に覚えがなかった。
けれど言われてみれば確かに、俺は家を訪ねて来た彼女に対して、名前呼びをしていたのかもしれない。
いつもなら心の内に留めているのに、無意識のうちにそれが出てしまったことが、俺にとっては恐ろしかった。
だから、俺はそんな気持ちを振り払うように、彼女を車から降ろす。
そして門の前まで見送るために、自分も車から降りた。
「1つだけ、聞いてもいいですか?」
「えぇ、私に答えられることなら」
「どうして私を信じるのですか?私は社長にお仕えして、もう10年以上になります。奥様から聞いた秘密を、私が社長に話してしまうとは考えないんですか?」
意を決してそう尋ねると、彼女は妖艶な笑みを浮かべた。
そして、ゆっくりと俺に近付いて上目遣いに見つめてくる。
「貴方は社長には言いません。なぜなら、私のことが好きだから。
社長よりもずっと前から、貴方は私のことが好きでしたよね?」
そんな言葉とともに、彼女の香水が鼻を掠めた。
柔らかいキスが唇に落とされて、まるで時間が止まったかのような感覚に陥る。
否定も肯定もしない俺を、彼女は愉しそうに眺めていた。
あぁ、彼女は恐ろしい人だ。
けれど、俺はそんな彼女に、もう心ごと囚われているのかもしれない。
.
風磨side
社長秘書である中島の車が去るのを見計らって、俺は(人2)さんが気付くように車から降りた。
案の定、彼女は驚愕したような表情を見せたが、俺は素知らぬ顔をして(人1)を助手席から降ろす。
すると、(人1)も(人2)さんの姿を視界に捉えて、どこか妖しげな笑みを浮かべている。
「ありがとうございました。そう言えばいいんですよね?」
(人1)はそう言って、立ち去ろうとする俺の腕を掴んだ。
「また会いましょう。貴方のこと、急に知りたくなりました。明日も明後日も、私たち会いましょうよ」
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時