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風磨side
「私、この子を育てる自信ないです。食べさせるお金もないし、何だか性格もキツくなったみたいで」
そんなふうに言ったかと思えば、今度は(人3)の方を向いて言葉を発し始める。
「あの人かアンタ、どっちかを選べって言われたら…私はあの人を選ぶわ。
あの人無しじゃ、生きていけないのよ。何だかんだ言って、あの人とは20年も一緒にいるんだから。
正直ね、私はアンタに愛情なんて無いの」
その言葉が、深く心に刺さった。
信じていた人から放たれる痛みを、(人3)はどんなふうに受け止めるのだろうか。
「アンタのことは、赤ちゃんの時にお兄ちゃんに預けて以来、ずっと忘れてたのよ。
ほら、別にアンタの父親と大恋愛の末に生んだわけでもないし」
「……(人3)、早く荷物をまとめて来い」
次々と飛び出してくる耳を疑うような言葉を遮りたかったけれど、(人3)も何かを言わずにはいられなかったのだろう。
「すごい。母親のくせに、よくそんなことが言えるね」
冷たく紡がれたその言葉は、(人3)の怒りや哀しみを痛いほどに反映している。
けれど、そんな(人3)の想いにも気付くことなく、母親は矛先を再び俺に向けた。
「だから、お兄ちゃんのところに行きなさいよ!腹違いでも兄妹でしょ?
アンタだって、20年も面倒を見たなら最後まで責任持ちなさいよ!!」
「……(人3)、早く荷物をまとめて来いって言ってんだろ!!」
家に向かってスタスタと歩き始めた(人3)を横目に、母親は俺に近付いて卑屈な笑みを浮かべた。
「あの子が結婚することになったら、必ず私に連絡ちょうだいね」
「しませんよ、連絡。絶対に」
.
(人1)side
東京への帰り道。
妹さんは後部座席に乗って、菊池風磨の知り合いだと紹介された私は助手席に乗り込んだ。
「疲れただろ。家に着くまで時間かかるし、寝てればいいよ」
「うん。ありがとう、お兄ちゃん」
静かなBGMのなか、少しの会話さえもない私たち。
彼は相変わらず、無表情のままハンドルを握っている。
暫く経った頃、後ろに座る妹さんが小さく嗚咽を漏らしながら泣き始めた。
すると、運転席にいる彼はBGMの音量を上げていく。
言葉では表さずとも、それは“妹”が思い切り泣けるようにする為の“兄”としての優しさ。
ほんの少し、菊池風磨という男に興味が湧いた。
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時