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風磨side






何食わぬ顔で助手席に乗り込み、シートベルトを着用する彼女。






「何処に行くか分かってて乗り込んだんですか?」


「さぁ、そんなの知らないわよ。でも遠くまで行くとしたら、むしろ好都合かもね。その分話をする時間を稼げるから」


「知りませんよ、後悔しても。それと俺、目的地に着くまで休憩とかしないタイプなので」


「構わないわ。それより早く出発しないの?急いでるんでしょ?」






何を言っても無駄だと思った。


強情そうだし、きっと一度決めたことは曲げないタイプだろう。




そんなことを考えながら、俺は強くアクセルを踏み込む。


出来ることなら、(人3)にはもう二度と傷付いて欲しくないから。








「思ったよりも早く退院したのね。病室に行ったら居なかったから」


「入院費って侮れないんですよ?ただベッドで寝てるだけなのに、余計な金は使いたくないですから」






社長令嬢として育ってきた彼女には、きっと分かり得ない感覚だろう。


もし彼女が俺の立場なら、迷うことなく個室に入院して、完治するまで留まるはずだから。


それが出来るだけの金も時間も、彼女は十分過ぎるぐらいに持ち合わせている。






「あのお人形、ちゃんと届けてくれたのね。ありがとう」


「………別に」


「……何でそんな意外そうな顔するの?」


「いや、ちゃんとお礼言えるんだ…って思って」






多少の嫌味を込めてそう言うと、彼女は少し不機嫌そうにフッと笑う。






「ねぇ、それより……これ、どうして返してきたの?」






チラッと視線を向ければ、彼女の手には見覚えのある袋が握られている。



それは紛れもなく、俺が要らないと突き返した時計だった。






「有名なブランドの時計なのよ。気に入らなかった?」


「何処の誰かも分からない奴に、そんな高価な物を渡すんだ。さすが、お金持ちの考えることは違うね」


「随分と嫌味な言い方ね」


「こんな時計、アンタなら100個ぐらい簡単に買えるだろ?」


「何が言いたいの…」


「俺が欲しいのは時計じゃなくて、そんな時計を簡単に買えるアンタだって言ったら、どうする?」






助手席の彼女を横目に見れば、訝しげな表情でこちらに視線を向けているのが分かった。






「どうしても昇りつめたい場所があって、その為には梯子が必要なんだ。その梯子になれるのがアンタだって……俺が本気で口説いたら、どうする?」






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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時

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