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風磨side
「俺は医者になれなくても生きていける。でも(人2)さんは違うだろ?あんなに強く、記者になることを願っていたんだ。記者を辞めたら生きていけない。心を病んだ挙句に早死にしそうだ」
「ダメよ、絶対にダメ。ちゃんと私が自首するわ。こんなことしたら風磨が、」
「ほら、早くここを出て」
半ば強引に彼女を立たせると、足元が覚束ない彼女を支えて歩かせて、部屋のドアをゆっくりと開く。
「早く行って?」
「風磨、私_____」
未だに震える身体を自分で抱き締めながら、(人2)さんは真っ直ぐに俺を見つめて口を開く。
「私、今日のことは絶対に忘れないわ。この借りは、一生かけて返していく。何年経ったとしても、必ず貴方を待っているから」
ハッキリを紡がれたその言葉に、俺は軽く口角を上げて頷く。
そして直後には彼女の身体を反対に向けて、その肩をポンッと叩いた。
「ほら、早く行って。絶対に振り向かないで、前だけを見て」
一歩ずつ足を進める(人2)さんの後ろ姿が見えなくなると、俺はもう一度部屋に戻った。
彼女が居た痕跡が無くなっていることを再確認すると、ポケットから携帯を取り出す。
「もしもし、警察ですか………実は、_______」
.
程なくして、パトカーのサイレンが聞こえてきた。
窓から見える赤いランプを眺めながら、俺は約束を守れなかった妹のことに想いを馳せる。
そして、≪ごめん、(人3)のことを頼む≫とだけ、聡に改めてメッセージを送った。
生きていくためには、必ず何かを選択しなければならない。
その選択が正しいのか間違っているのか、人は白黒をハッキリさせたがるけれど。
初めから間違っていると思って何かを選択する人など、この世にはいないと思う。
結果的には誤りの選択だったとしても________
少なくとも、選ぶその瞬間だけは、それが正しいと信じているのだ。
そのことは、俺自身も例外ではない。
この時は、選び取ったその瞬間だけは、それが最善であると信じていたかった。
この先に待ち受ける未来は、今までに思い描いていたものとは異なるけれど。
俺のことを待ってくれている(人2)さんが居る限り、彼女とともに慎ましやかに生きられれば、それ以外に何も望まなかった。
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時