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(人1)side
夕食の後、私は父に呼び出された。
「労働組合と話し合いの場を設けたようだな」
「はい。昨日ちょうど双方の都合が合う時間があったので」
「それで、話し合った結果がこれか。決して言いなりになるな、とあれほど言ったはずだが」
その声色には怒気が含まれている。
決して言いなりになったわけではない。
あちら側の言い分に耳を傾けて、そこに理に適うものがあったから、今いる非正規社員の一部を正規社員にしただけの話。
それ相応の条件をこちら側も提示している。
つまり、互いにウィンウィンというわけだ。
「お前には、経営者としての自覚が足りないんだ!」
けれど、いくら私の考えを話したところで、この頑固な父が聞き入れるとも思えない。
結果が全て。その為には手段を選ばない。もちろんプロセスなんてどうでもいい。
父は昔からそういう人間なのだ。
「お前の代わりは他にもいる。航だって立派な跡継ぎ候補なんだ。分かってるのか!」
怒り任せに投げ付けられた灰皿は、避けきれなかった私の頬を掠めた。
キリッと痛みが走ったことからして、切り傷が出来ているに違いない。
「失礼します。まだ仕事が残っていますので」
軽く会釈して部屋を出たところで、グラスを手にした(人2)の姿が視界に入った。
父は食後に飲む薬があるから、きっとその為の水だ。
いつもこうやって部屋に運んでいることは知っていたけれど、今日はタイミングが悪すぎる。
「どうしたの、その傷」
「別に。何でもありませんから、お気になさらず」
確かにそう言葉にして自室に戻ったはずだった。
それなのに15分ほど経った後ドアがノックされ、私の返事を待つことすらなく、彼女は部屋に入ってきたのだ。
「どうしたんですか。私、入ってもいいなんて言ってないんですけど」
「やっぱり顔の傷が気になってね。ほら、ちゃんと薬を塗らないと痕が残っちゃうわ」
母親ぶって心配しているフリをする姿に、思わず笑いそうになる。
この女が本当に気になっているのは私の怪我ではなく、父の“跡継ぎ候補”の話だというのに。
「そういえば、あの男、否定も肯定もしなかったそうですね」
「彼はお金を全額返して来たわ。どうしてだか分かる?貴女を 殺 し 損ねたからよ」
「……そう。カミングアウト、どうもありがとう」
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2018年3月22日 18時