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禊の話 ページ21

祖父は、高尚な陸軍一等兵で、日ノ本が外つ國に誇るべきアルケミストだった。

「禊」
「はい、おじいさま」
「文字には命が宿る。おじいちゃんはな、命を守りに行っているんだ」
「……良く、分からない」

 おじいちゃんが僕には名の知らぬ先生方を引き連れていたのを、僕は頻繁に目にした。
 おじいちゃんは、徳田秋声先生と中野重治先生を初めに選んだのだと言った。二人はとても誇らしそうに、おじいちゃんと共にあれて幸せなのだと言った。

――けれど、祖父は亡くなった。

 寿命。病で倒れただとか、過労だとか、そう言うのでは一切無かった。朝、僕が祖父を起こしに行って、その時に気付いてしまった。息をしていないんだって。急いで森先生を呼びに行ったけれど、首を振っただけだった。秋声先生も、重治先生も、僕の頭を撫でてくれて、一粒だけ涙が溢れた。

 次にアルケミストの業務を継いだのは父だった。僕はずっと祖父とこの図書館で過ごしてきたから、父とは初めて会う。……ほと小さい時には、会っていたのかもしれないけど。
父はそんな事を気にせずに僕を愛してくれて、僕もそんな父が大好きだった。

 ある日のこと。父が潜書に失敗した、と、その日の助手の、芥川先生から聞いた。「お父上が、どの有碍書にも見当たらないんだ」、とも。僕が、十六になった時のことだ。

 少しして父が見つからないと上が判断すると、政府はこの図書館の司書に僕を推薦した。断る理由も無かったし、父が入ってしまった書物を探したかった。

 意外にも、一番に力を注いでくれたのは泉すずさんだった。「父さんおらんのは寂しいもんなあ」と潤んだ目で、共に探してくれた。すずさんの聞き込みの中、堀先生から一つの書物を預かった。「檸檬」と表紙に印字されたその本は、梶井基次郎と言う先生が書かれた書物のようで。

「重治先生」
「準備は出来ているよ」

「行こう」。そう言って二人同時に潜書したはずなのに、目の前に広がった景色の中には、僕しか居なかった。……まあ、何とかなる……んじゃないかな。

 さくさく、と僕は世界の中を歩いた。……父は、本当にこの中に居るんだろうか。僕の金と同じような色を持った、父は。

 ふと、目の端に金を捉えた。そこにあった木の裏、金髪に目を奪われたがしかし、それは父ではなく……

「……ん?」

 檸檬のようなイエローの強い髪。僕は意識的に、「梶井基次郎である」と認識した。

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作者名: | 作者ホームページ:   
作成日時:2017年11月24日 2時

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