3.王の財宝・貴方のための物語(4) ページ19
「……なに?」
視線を逸らさないままでしっかりと見据え、世を、人を、すべてを裁定する紅玉がこちらを疑るのではなく、己を疑る色に変わるのを確かめる。
しばしの沈黙の後、返答は弓を射るようにして宮内を揺らした。
「…っふ、フフ、ッハハハハ!!
我を試すとは良い度胸よな、…その我を我と知って尚譲らぬ態度。.......確かに我に並んだことのある雑種なのだと認めてやる」
少しばかり抜けた毒気、まるで心地が良いと唄うように王は笑う。
命の危機に脈打つ鼓動を感じながらほっとするが、当然、これは賭け…ようするに"ハッタリ"だった。
彼を僅かに楽しませ場を流す…だが、それが本物のハッタリではない事実が彼を高揚たらしめた。
つまり、世界最古の王を目前にして、自らの死を覚悟して。無礼も承知で「試した」のだ。何故ならそれを愉悦と笑む相手だと、自分は知っている。
何よりも他者と比べられ、そして同じ土俵に立つことすら嫌う王にその事柄をぶつけるのは最早命知らずと言える。それでも自らに向いた疑いを彼、自分自身に向けられれば"神相手"ならば結果は上々だ。
ひとしきり笑い終えて、玉座にかけ、組んだ足を崩し改めて王はこちらを見据える。
「…この霊基には刻まれておらぬ、か。
何時か何処か、いつぞやの聖杯戦争で…我と貴様が肩を並べ闘う世界があった…しかしそれを知るのは、若い我であると。
もしくは先に召喚されていた、其方の我か…まあどちらでも良い。
どれにしろ我が務めを果たすまでは知り得ぬ宝だ、と…それで良いのだな? 雑種」
こくり、と頷く。さすがに千里眼を持つ王様、相対するだけで心臓を掴まれる思いだ。
答えが得られるまで自らを疑え。という自らが投げた最大限の無礼に対し、罰を下すことすらなく、明確な理解で返されたのは意外だった。
存外…やはり話が分かる人なのかもしれない、と思い違いもするが、冷静に思えば彼の目が裁定したのはどうやら己自身らしい。
その不満げな空気には、何も知らない人を騙したようで、罪悪感を抱えてしまっていた。
しかし…それを些事というように王は鼻で笑い飛ばす。
「構うな、カルデアのマスター。貴様が吐いた偽りなき誠意を以て赦したのは我である。…だが。」
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作者名:らんぱく | 作成日時:2019年11月17日 7時