社長がお呼びです。

安田社長がお呼びです。 ページ1

騙されるな。

騙されるんじゃない、A。

この陽だまりのような、
ふわふわ柔らかい笑顔に。


今朝もそう言い聞かせて出社したにも関わらず。


「なあ、Aちゃん、頼まれてくれへん？
今からクライアントんとこ行くねんけど、
打ち合わせに同席して欲しいねん」


吸い込まれるような無垢で綺麗な瞳で、
首かしげて聞かれてつい。


「分、かり、ました」


条件反射のようにうなづいてしまっているではないか。


だめだぁ。

今日も負けた。

完敗。


うちの社長は可愛い。


もうじき３４歳にもなろうとしてる成人男性と思えない、かわゆらしさ。

私より８歳も年上なのに、全く感じさせない。


例えるなら・・・


んー、何だろう。

自由に野山を駆け回る、
可愛い小動物、みたいな？

いやいや、

いっそ、

この世に実在してない、
架空の・・・


よそ事を考えてるうちに、


「じゃ、行こっか」


安田社長はさっさと、
ホワイトボードに、


外回り、
打ち合わせ。


そう書いてる。



本当は、デスクの上には、
やんなきゃいけない仕事がまだあるんだけど・・・


「Aちゃーん、はよ行くで〜」


安田社長が笑顔で手招きしてるの見たら、


ま、残業してやればいっか。


そう思い直した。

て、ここ数週間、こんな感じなんだよね・・・


ちょっとお疲れがたまりつつあるけど、
安田社長の笑顔見ると、吹っ飛んじゃうんだよあ。






神戸から少し離れた郊外の閑静な住宅街の一画にある、

インフィニティアートという、
デザイン会社。


前の会社の丸山先輩の紹介で、
ここに転職してから早、半年が過ぎて、

仕事にも少しずつ慣れてきた今日、この頃だけど・・・


最近、ちょっとばかし困ってるんだよなぁ。


営業車に乗り込んで、ハンドルを握る。

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