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洋服屋さんを出たら、
雨は上がってた。
雷ももう鳴ってない。
章ちゃん、渋谷さんのお店に、
バンドの練習、ちゃんと行ったかな。
また、章ちゃんの事、考えてる。
考える度に、
麻美さんのきらきらした笑顔を思い出して、
汚い嫉妬の感情で、
自分の全部を埋め尽くされそうになるくせに。
今は忘れていたい。
逃げたい。
章ちゃんを好きな気持ちから。
洋服を選んだお礼したいって、
丸山先輩に強引に誘われて、
カフェでお茶して。
二人でパンケーキ食べた。
丸山先輩、スイーツ大好きみたいで、
私よりも詳しくて。
美味しお店の話してる時は楽しくて、
少しだけ気持ちが楽になった。
「良かった。
やっと笑ってくれた。
Aちゃんはやっぱ笑顔が一番可愛い」
私の頬を、人差し指で突っついて笑う。
急に恋人の距離になって、
びっくりしちゃって、
フォーク、落としそうになった。
章ちゃんにおんなじ事されたら、
ときめいて大変だろうな・・・
って、また章ちゃんの事・・・
追い払っても追い払っても、
しつこい雨雲みたいに、
追いかけて来る。
車で送ってもらって、
部屋の前で別れる時、
「今日は思いがけずデート出来て、
めっちゃ楽しかったわ。
Aちゃん、ありがとおな」
やけにしんみり、
丸山先輩が言うから、
なんだか切ない雰囲気に。
「どうしたんですか？
なんか、最後みたいな言い方・・・」
「いや、そんなんちゃうで。
俺がどっか行くわけないやんか。
寂しい時はいつでも呼んで。
すぐに飛んできて、
Aちゃんのそばにおるから」
丸山先輩は、
辛くて悲しい時ほど、
こうやって笑うの。
私が傷つけてるんだ・・・
「あの、・・・」
「じゃあ、練習行って来るな」
「あっ、はい。
だいぶ、遅刻しちゃいましたよね。
すいません」
「やから、なんでAちゃんが謝んの」
ますます困った顔で笑って・・・
丸山先輩が、
私の手に触れた。
びっくりしてるうちに、
その手を強く引かれて、
抱きすくめられる。
「今だけ。
こうさして」
章ちゃんとは違う腕の中。
章ちゃんとは違う匂いに包まれていたのは、
ほんの数秒。
「ありがとお。
またね」
丸山先輩がそう言って、
私の髪をぽんぽんってして、
それでも全然、帰る気配ない。
私が部屋に入るの待ってるんだ、って、
やっと気付いて。
「今日はご馳走様でした。
ありがとうございました」
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作者名：fool x他1人 | 作成日時：2018年8月10日 16時
