キス、壱萬圓。

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〆．



「不器用……」



「だってそうでしょ？もっといい方法あったと思う。直接お金を渡されるからこっちだって嫌になるの。



もし今後同じことを誰かにするなら、こっそり家賃支払うとか、現物支給とか、目に見えない形で納めたらいいと思うよ」



もちろん、私以外でお願いします。



藤井くんに対する感情は、真相を教えられても変わらない。



ちょっとした食い違いがあったとはいえ、傷ついたのは事実なんだから。



「…………A、俺と結婚して」



「は」



やっぱりぶっ飛んでる。



「俺と夫婦になってほしい」



どんどん顔の距離が近づいていく。



「キス一万円が嫌なら、ただでしよ」



ここまで来ると、あほとかそういう次元じゃないかもしれない。



「俺はAが好き、Aのためならなんだってする。でもさせてくれへんから………結婚しよ」



彼の言わんとしていることは、わかった。



「私は藤井くんのこと嫌いだから、しない」



「嘘や」



「嘘じゃない」



「だって……今も、ちゃんと目を見て話してくれてる」



本当に、困った人だ。



「だとしても、好きじゃない。藤井くんと結婚する理由がない」



「じゃあ、Aが俺のこと好きになればええんやんな」



藤井くんは、私の前に置いていたコップを持ち上げて、中のココアに息を吹きかけた。



「絶対惚れさせるから、待ってて」



なんのつもりか、そのまま飲ませてくれたけど。



「……………ふーふーしなくても、もう冷めてるよね、これ」



「ちょっとくらいキュンキュンしてやぁ……」



「無理」



こうして、私と藤井くんの長い長い戦いが、始まった。



〆．

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