第百五十七話 ページ8
「――んむ」
先生の掌が私の口に押し付けられる。
口を塞がれ、残りの言葉を告げることができない。不満そうに先生を見上げれば、近づいてくる彼の顔。
そして、ゼロ距離。
見開かれる私の瞳。閉じられた先生の目の、長いまつ毛が映る。
時間にしてはおそらく数秒だったはずだが、スローモーションのようで、数分のように思えた。
ちゅ、と濡れた音をたてて先生の唇が離れていく。
キスを、されたわけではない。
先生の唇は先生の手の甲に。私の唇は先生の手のひらに。つまり、先生の手越しのキス。
なのに、心臓のバクバクが鳴りやまない。顔が火を噴いたみたいに熱くて、耳元に心臓が移動したみたいにうるさい。
「……それを、年下の女に言わせるなんて、格好悪いだろ」
「……ぁ、ぅ」
喋りたいけど、言葉にできない。
恥ずかしくてどうしようもなくて、私は両手で顔を覆った。
「でも、それを簡単に口にできるほど、俺も人間が廃れちゃいない」
先生の声しか聞こえない。
遠くで聞こえる文化祭の喧噪や、クーラーの音、時計の音。全部耳に入っているのに、全部かき消されたかのように、先生の言葉が頭の中で反響する。
「……わかって、ます。先生を、困らせてみたくなっただけです」
「っくく、これがお前の「間違ったこと」か?」
「だって、先生が促すから」
む、と頬を膨らます。
顔は相変わらず赤いけど、この人には泣き顔も怒った顔も全部見られたんだから、隠すものもあまり残ってはいない。今更隠しても意味がないような気がして、潔く曝け出す。
「困ってるよ」
「え」
「お前が大事だから。手を出しちゃいけないって知ってんのに、お前がそんなこと言うから勝手に体が動きそうになる」
そういって先生は、私の額にかかった前髪をすくい上げてはどける。
壊れ物を扱うように、大切そうに。
「先生が、「先生」だから?」
「まぁ、簡単に言っちまうとそういうことだな」
先生はきっと私と同じことで悩んでる。
立場のこと。お互いのこと。そして先生は、ひどく優しいから、きっと私の将来のことも。
そんな貴方だから、好きになったのに。
「じゃあ私、諦めないです」
「……邦月?」
「私、ずっと先生追いかけてます」
先生を見上げれば、先生は驚き目を見開いたあと、くしゃりと表情を崩して笑った。
「……くそ、抱きしめてぇ」
「あとちょっと我慢してください、自分で決めたことをやり通す先生のが私、好きです」
「……小悪魔かお前」
「貴方の生徒です」
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ステラさん» うわー嬉しいです!幸せだと言ってもらえることこそが幸せです!本当に励みになります!本当にありがとうございます!! (2022年2月5日 23時) (レス) id: 5d704cea99 (このIDを非表示/違反報告)
ステラ - 面白すぎて最近読み始めたのにもうここまできちゃいました!!!めちゃくちゃドキドキしてます!!素敵なものが読めて幸せです! (2022年2月2日 23時) (レス) id: 3475edfef8 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - 彩華さん» ツボ!!!!!うれしい!!!!!!更新遅くて本当に申し訳ございません。励みになります。頑張って更新します〜!! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - Amamiyaさん» ありがとうございます!亀更新にもほどがありますが、完結させず放置することは絶対ございませんので、たまに覗きにきてやってください…!応援、励みになります! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - やばい。ツボすぎます!一気読みしちゃいました!更新頑張ってください! (2021年4月1日 22時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2019年5月19日 17時