第百七十六話 ページ27
震える手を動かせば、先生が私を拘束する手に力を込めた。まるで逃がさないとでも言うかのように、さらに体も密着させてきた。
自分の心臓がうるさくて何も聞こえない。頭の処理が追い付かなくて、研ぎ澄まされた感覚だけが先生の存在を押し付けてくる。もう頭の中がぐちゃぐちゃで涙が滲んだ。
「なぁ、いなくなんなよ、俺のもとから」
そう言うと、先生は私の額に唇を落とす。ちゅ、と濡れた音に大袈裟なほど肩がびくりと震えた。額が燃えるように熱い。離れたはずの唇の感触が、鮮明に残ってる。
先生のその声に、寂しさが聞こえて。
「な、んで」
「……?」
「なんで、先生がそれを言うんですか……」
それを、よりによってあなたが。
「……相手を安易に信じると不憫に終わるって、おみくじで」
「……は?」
「私、先生のこと何も知らない。先生の趣味とか、学生のころとか、交友関係とか、……お酒の飲み癖とか」
「何言って、」
ぽつりとこぼした先生は、どこかで合点がいったのかその言葉をそこで止める。
ようやく私の目を見てくれた先生の灰色の瞳を見つめ返したら、瞳の端に溜まっていた涙が頬を伝い落ちる。それを見た先生の瞳が大きく見開かれる。
それから申し訳なさそうな顔で私の手を解放し、頭を撫でてくれた。
「……泣くなよ」
「私、私の知らない先生を見るのやだ……。知らないもん、ベラさんとか、マサオミさんとか、飲みだすと止まんないとことか。先生は、私の全部知ってるのに」
「別に隠してるわけじゃねぇよ」
「知ってるけど、そうじゃない……怖いんだよ。だって、先生の周りにそんなにたくさんの人がいるのに、私が選ばれる理由がわからない。からかわれてる、遊ばれてるって思っちゃう。安易に信じちゃダメって、言われちゃ余計に」
「お前は俺の言葉よりもおみくじを信じんのかよ」
先生の声色に棘を感じる。
違うけど、そうじゃないけど、私だっておみくじの言葉を笑って捨てれたらよかった。
「不安なんだもん……」
「お前、ベラに嫉妬してんのか?」
どこか確信めいた言葉とともに、先生が私の頬を撫でる。
少し恥ずかしくなって、私は先生から視線を外して泳がせる。だけど、否定だけはしなかった。
「馬鹿、ベラは――」
「私もう結婚してるよぉ」
そこにはいないはずの第三者の声が聞こえて、私たちは弾かれたように振り返る。
暗闇に包まれた部屋の窓枠に寄りかかるように立っている金髪が見えた。
「ベラ、お前なんで」
「みーっちゃった」
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ステラさん» うわー嬉しいです!幸せだと言ってもらえることこそが幸せです!本当に励みになります!本当にありがとうございます!! (2022年2月5日 23時) (レス) id: 5d704cea99 (このIDを非表示/違反報告)
ステラ - 面白すぎて最近読み始めたのにもうここまできちゃいました!!!めちゃくちゃドキドキしてます!!素敵なものが読めて幸せです! (2022年2月2日 23時) (レス) id: 3475edfef8 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - 彩華さん» ツボ!!!!!うれしい!!!!!!更新遅くて本当に申し訳ございません。励みになります。頑張って更新します〜!! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - Amamiyaさん» ありがとうございます!亀更新にもほどがありますが、完結させず放置することは絶対ございませんので、たまに覗きにきてやってください…!応援、励みになります! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - やばい。ツボすぎます!一気読みしちゃいました!更新頑張ってください! (2021年4月1日 22時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2019年5月19日 17時