第百五十四話 ページ5
そしてアリスは決断を下した。不思議の国に残るという決断を。
彼女は選んだ。元の世界を捨てて、物語の中の一人として生きることを。
結末はハッピーエンド。でも見る人によればバッドエンド。そこは自己解釈でお願いしますってことで。
そう、終わったんだ。
舞台裏でみんなが両手をあげて喜ぶ。
樹たちの歓声が聞こえる。だけどなんでだろう。彼らの声が遠い。
一番セリフの多かったアリス役であった私。私がこの中で一番喜んでいるはずなのに。重荷が肩から降りたと。ようやく終わったんだと。
それなのになぜ、こんなにも空虚な気持ちに包まれているんだろう。
「奏音! お疲れ!」
「千佳……ありがと」
ふ、と笑う。
するときょとりと千佳が私を見てくる。
「……どうしたの?」
「……奏音、疲れちゃった?」
「え、いや……そんなことないよ。それより流石千佳だね。すごい大盛況だった、全部千佳の手柄じゃ――」
「……奏音」
す、と千佳の掌が私の額に押し当てられる。
遠くで先生が、私のほうを見ているのに気づいた。
「……熱はないみたいだね。本当に、大丈夫?」
「――……ごめん、やっぱりちょっと、疲れちゃったかも」
苦笑して私はウィッグを外す。少しだけ蒸れている久方ぶりの自分の髪の毛を軽く手櫛で直す。
「ちょっと、このあと保健室で休んでるね」
「うん! ごめんね、奏音のセリフ圧倒的に多かったもんね」
「えっ姉御具合悪いのか! やっぱ俺がセリフ忘れたせいで……」
「そんなわけないでしょうが、普通にはしゃぎすぎただけだよ」
騒ぎを聞きつけて、私の周りに人が集まりだす。
大丈夫かと聞いてくれるクラスメイトに私は一人一人返答とお礼を返す。
少し離れた位置から、先生が私を見ている。だけどそんな彼と目を合わさないよう、私はわざと少し下を見るようにしていた。
千佳に軽く着替えを手伝ってもらい、さっさと制服へと戻る。
あぁ体が軽い。アリス衣装といったら誰でも思いつくようなあのワンピ、あれ実はまぁまぁ重いのだ。
ワイシャツにスカートにリボンにニーソ。女子高生の正装ともいえる服装に戻った私は、一気に夢から覚めたようで。
「ごめんね、千佳。付き添ってもらっちゃって」
「へーき! 一人で行かせて途中で何かあったら私心配で泣いちゃう」
「そ、そんなに……?」
「そんなに!」
気づけば保健室はもうすぐそこだ。
「ねぇ奏音、自分の気持ちに正直にね」
「……え?」
「深く、考えちゃだめだよ、奏音の悪いクセ」
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ステラさん» うわー嬉しいです!幸せだと言ってもらえることこそが幸せです!本当に励みになります!本当にありがとうございます!! (2022年2月5日 23時) (レス) id: 5d704cea99 (このIDを非表示/違反報告)
ステラ - 面白すぎて最近読み始めたのにもうここまできちゃいました!!!めちゃくちゃドキドキしてます!!素敵なものが読めて幸せです! (2022年2月2日 23時) (レス) id: 3475edfef8 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - 彩華さん» ツボ!!!!!うれしい!!!!!!更新遅くて本当に申し訳ございません。励みになります。頑張って更新します〜!! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - Amamiyaさん» ありがとうございます!亀更新にもほどがありますが、完結させず放置することは絶対ございませんので、たまに覗きにきてやってください…!応援、励みになります! (2021年11月20日 18時) (レス) id: aebfacbb01 (このIDを非表示/違反報告)
彩華 - やばい。ツボすぎます!一気読みしちゃいました!更新頑張ってください! (2021年4月1日 22時) (レス) id: da4daeacca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2019年5月19日 17時