第百三十三話 ページ34
「あの、濡れませんか」
唯一私たちの近くに座っている家族は、レインコートを着ている。もちろん私たちはそんな便利なものなんて持ってきていない。
「それがいいんだろ」
「ちょっと何言ってるかわからないです」
先生ちょっとよさげな服を着てるくせに。やっぱりやめましょうといっても先生は聞く耳を持たない。
「ほら、始まるぞ」
すっと入り口から水を切るように二体のイルカが入ってきては、まず綺麗に空中でジャンプをした。
着地し、今度はこちらに向かっては私たちの目の前で交差をしつつジャンプ。
イルカの体に張り付いた水滴が宙に舞っては、太陽や照明の光を反射して宝石みたいに光る。思わず口が開いて、吐息が漏れる――が、
「ぴゃー!」
着地した瞬間ばしゃりと水が跳ねては私たちの体に降り注ぐ。
もう、この服帰ったら洗わないと。洗濯機じゃダメなものもあるからクリーニングに出さないと!
不満たらたらで私の隣にいる張本人を見て、そしてすぐに私の顔から怒りの表情が消えて代わりに目が見開かれた。
「っはははは!」
まるで幼子のように八重歯を見せて楽しそうに笑う先生。
折角ワックスか何かで上にかき上げた髪の毛は今の水の勢いで落ちてきていて、前髪のある先生はいつもより少し幼く見える。
そういえば先生は大学卒業したてで、まだ21歳なんだ。16歳の私と5歳の差。
短いようで、長いようで、でも先生は私たちとそう変わらない。成人したとはいえ、まだ社会人になりたてで、そう遠くない存在なんだ。
そんなことを考えながらぼんやりと先生の横顔を眺めていると、先生がちらりと横目でこちらを見てきた。
「ん、どうした?」
ふ、と笑みを浮かべて私を見る。優しそうに眼を細め微笑んでいる彼のその顔の整いように、やっぱり頬に熱を感じながら「今この瞬間を写真で撮りたいな」なんて思ってしまった。
ふる、と首を振って何でもないですと否定する。
「そうか」
人差し指で私の頬を流れる水滴をぬぐった先生は、今度は手のひらで軽く私の頬を撫ぜてからちゃんとイルカショーを見るように促す。
言われるがままに改めて目の前で繰り広げられるイルカたちのショーに顔を向ける。いつの間にかアシカたちも登場していて、後ろでボールを操っていた。
後ろからの歓声、マイクの声、どれもミュートされたみたいに聞き取れなくて
でもそのあと一緒に撮ったイルカたちとの写真はきっと、私の宝物になったのだろう。
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - みっちゃんさん» ありがとうございます!これからもバンバン頑張ります!一気に読んでくださってうれしい…これからも何卒よろしくお願いいたします!! (2019年5月11日 19時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
みっちゃん - このお話大好きです!一気に読んだんですけどすっごい楽しいです!これからも頑張ってください! (2019年4月4日 2時) (レス) id: b4edfa4067 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - あだ名がンゴって…さん» うわー!ありがとうございます!そういっていただけただけですごくうれしいです。コメント励みになります。これからも頑張らせていただきます! (2019年4月1日 21時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
あだ名がンゴって… - 初コメ失礼します。あなたの文才、ください(切実)めっっっっちゃ好きですもうなんなんですか大好きです。更新頑張ってください!!! (2019年3月31日 11時) (レス) id: d0cbd630d9 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - セツナさん» うっありがとうございます(泣)尊敬に値するようにもっと文才磨きます!ゆっくり亀さんに呪われていますが頑張って更新させていただきます! (2019年1月9日 22時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2017年6月25日 13時