第百八話 ページ9
好きな人は……いない、いないと思いたい。
ふと頭の中に浮かぶ彼の名前を必死でかぶりを振ることで考えないようにした。
「いないです、好きな人とか」
「もったいなーい! じゃあ今日お見舞いに来てくれる男子たちの中で、気になってる人とかは?」
知ってるんですよ、いつも来るメンバーの顔! と看護師さんはどや顔で言ってくる。
彼女は私の担当をしているだけあって、よくみんなともばったり顔を合わせたりしている。私のリハビリの時間とみんなのお見舞いの時間がかぶったりすることもよくあったし。
「うーん、樹は幼馴染ですし、和樹くんはクラスメートだしなぁ……」
「可能性ばっちりじゃないですかー! 幼馴染とかよくあるくないですか?」
食いついてくるなぁ……。
恋バナとか大好きな類の人種なんだろうか、と私は苦笑で返す。
「あっ、あと、あの人!」
人差し指を立てて、療法士のお姉さんが満面の笑顔で言ってくる。
「夜遅くによく来る、お兄さん!」
ぎくり、と私の体が固まる。
「あの人、めっちゃイケメンじゃないですか? 邦月さんのお兄さんだったり?」
「い、いえ、あの人はただの私の担任で……」
「え、担任の先生? そんなに頻繁にお見舞いに来てくれるなんて珍しいですね……ほとんど一日おきくらいに来てません?」
「あ、えっと、ど……どうでしょう……せ、生徒思いの先生、です、し……?」
必死に頭を巡らすが、お姉さんは納得のいかない顔をしている。
うぅ、やめて……深く探らないで。
「こらー! 浪江さん! またサボりですか!?」
「ひぇ! ごめんなさい、すぐ戻ります! ごめんね、邦月さん、またあとでね!」
また、なんだ……いつもおしゃべりな人だとは思っていたけど、結構頻繁に患者さんに恋バナと化してるんだろうな……。
乾いた笑みを浮かべて手を振り彼女を見送る。
そう、なのだ。
あれから先生は一日おき、忙しくないときは連日でお見舞いに来てくれる。
とはいっても閉館時間の一時間前に来ては、閉館時間の直前に帰る。つまり、いてくれるのは一時間もないくらいだ。だからと言って少ないだとかいうつもりはないけど、なんだろう……。
しかもお見舞いに来ても、そばに座ってお互い黙ったままだったり、今日の授業の軽い説明とかだったりするし、ほぼ毎日会っているせいで大して会話に花が咲くこともない。
「奏音ー!」
「あ、……今日も来てくれたんだ皆!」
「コンビニのスイーツ買ってきた。食えそう?」
「うん!」
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - みっちゃんさん» ありがとうございます!これからもバンバン頑張ります!一気に読んでくださってうれしい…これからも何卒よろしくお願いいたします!! (2019年5月11日 19時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
みっちゃん - このお話大好きです!一気に読んだんですけどすっごい楽しいです!これからも頑張ってください! (2019年4月4日 2時) (レス) id: b4edfa4067 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - あだ名がンゴって…さん» うわー!ありがとうございます!そういっていただけただけですごくうれしいです。コメント励みになります。これからも頑張らせていただきます! (2019年4月1日 21時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
あだ名がンゴって… - 初コメ失礼します。あなたの文才、ください(切実)めっっっっちゃ好きですもうなんなんですか大好きです。更新頑張ってください!!! (2019年3月31日 11時) (レス) id: d0cbd630d9 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - セツナさん» うっありがとうございます(泣)尊敬に値するようにもっと文才磨きます!ゆっくり亀さんに呪われていますが頑張って更新させていただきます! (2019年1月9日 22時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2017年6月25日 13時