第百十話 ページ11
「姉御おおおおお!」
松葉杖をつきつつ、千佳に教室の扉を開けてもらう。
教室の中に入ってきた私に気づいた生徒が「あ!」と声をかければそれはもうまるで水面の波紋のように教室中に広がる。
次の瞬間、私は生徒たちに囲まれていた。
「大丈夫、奏音!?」
「聞いたぞ、樹の馬鹿のせいで無茶したって!」
「樹の馬鹿!」
「おいぃ、途中から心配の声より俺の罵倒が増えてるんだけど!」
おとなしく席についていた樹が耐え切れずにツッコむ。
それがおかしくて、私は思わず口元を隠しながらくすりと笑ってしまった。
「心配かけてごめんね、私はもう大丈夫。今日から普通に登校するよ、体育は見学だけど……」
「よかったぁ! 結局山登りも中止になったし、すごく心配だったんだよ」
「俺見たぞ、めっちゃ怪我やばかったじゃん、笹塚先生血だらけだったぞ!」
「そ、それはトラウマものをお見せしました……」
あまりに申し訳なくて私は軽く頭を下げる。
もともとみんなの楽しいイベントをつぶしてしまったことについてちゃんと謝罪をしなければいけないとは思っていた。だが、怒っている顔の者は誰一人としておらず、みんな純粋に心配してくれている。
それが何故かすごくうれしくてついついにやけてしまう。怪我をした特権だと思えばいいのだろうか。
「でも元気そうでよかった!」
「うん、元気元気! 病院で一か月分くらいの睡眠はとった気分だし、勉強遅れちゃったことだけが気がかりだな〜」
「さすが委員長……怪我よりも勉強優先とは」
「まぁ、委員長ならすぐ追いつくだろ」
だよなぁ、とうなずかれては苦笑する。
気づけばだんだんみんなの話題はそれていき、私の前には道が開く。ようやくみんなの興味の対象から私は外れたようだ。
松葉杖をうまく使って机の間を通り、慣れないせいで時たま椅子の足に杖の先をぶつけつつ何とか自分の席に着く。
「姉御、おはよう」
「和樹くん! おはよ。お見舞いいっぱい来てくれてありがとうね。樹も、千佳も」
「当然!」
後ろで鞄を持ってくれていた千佳が人懐こい笑みを浮かべて、私のカバンを机の横に引っ掛けてくれる。なんかパシリにしている気分で少し罪悪感だけど、善意は甘んじて受けるべきだよね。
「足の様子、どうなの?」
「順調に治ってるよ、しばらく通院は必要だけどそう遠くないうちにギブス外れるだろうって」
「そっか、よかった。治ったら、今度こそみんなでファミレス行こうな」
にこ、と樹は笑ってそう言った。
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - みっちゃんさん» ありがとうございます!これからもバンバン頑張ります!一気に読んでくださってうれしい…これからも何卒よろしくお願いいたします!! (2019年5月11日 19時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
みっちゃん - このお話大好きです!一気に読んだんですけどすっごい楽しいです!これからも頑張ってください! (2019年4月4日 2時) (レス) id: b4edfa4067 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - あだ名がンゴって…さん» うわー!ありがとうございます!そういっていただけただけですごくうれしいです。コメント励みになります。これからも頑張らせていただきます! (2019年4月1日 21時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
あだ名がンゴって… - 初コメ失礼します。あなたの文才、ください(切実)めっっっっちゃ好きですもうなんなんですか大好きです。更新頑張ってください!!! (2019年3月31日 11時) (レス) id: d0cbd630d9 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - セツナさん» うっありがとうございます(泣)尊敬に値するようにもっと文才磨きます!ゆっくり亀さんに呪われていますが頑張って更新させていただきます! (2019年1月9日 22時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:
作成日時:2017年6月25日 13時