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第五十三話 ページ4

帰り道はどこか憂鬱だった。
そんなのは慣れっこで、私はイヤホンを耳に差しつつオレンジ色の夕焼けを見つめながら道を歩く。
夕焼けは悲しそうだと誰もが言うが、今の私にとってそれはどこか怒っているようにも見えた。

「……嫌な日」

こんな日は、早く家に帰ってやることを片付けて、さっさと寝るに限る。
明日起きれば、嫌な気持ちもどこか薄れてしまうから。
ただ、暁や胡桃に嫌な顔を向けないように努力をしなければいけない。

いくつになっても、これは慣れないなぁと頭の隅で思った。
楽しくないのにニコニコ笑う、そんな大人になりたくなくても私たちはならなきゃいけない。
「自分らしく生きろ」だなんて綺麗事を言えるのも、高校生までだろう。

はぁ、とさも憂鬱な溜息をつきながら私は曲がり角を曲がった。

「邦月」

なんで、という言葉は喉に突っかかったまま出てくることはなかった。
振り返れば、最近学校で見慣れてしまったあの人の姿がそこにはあった。
学校でしか会わない彼は、こんなところで出会うのはどこか新鮮すぎて、まるで別人のような感覚すらあった。

「……笹塚先生」
「おう」

ふわりと笑う彼。
いつものワイシャツにネクタイ、そしてズボン。
片手にスーツを引っ掛けて、手をポケットに突っ込む彼は下手すれば会社員にすら見えた。

いつもの意地の悪い笑みではなくて、純粋そうな、人の良さそうな笑顔。
そんな笑顔を浮かべられて、私は動揺を隠せずにいた。
いや、彼がここにいる時点で動揺を隠せないのだけれど。

「……何故、ここに?」
「悪いな、驚かせたか。 いや、少し話があってな……時間、いいか?」
「……平気、ですけど」

暁が買い物から家につくまでまだ少し時間がある。
少しくらいの立ち話なら余裕だろう。

近くの家の塀に寄りかかりながら、私は先生を見上げた。
端正な顔に端正な体つき。
今この周りに人がいないからまだいいものの、下手したらまた学校のように人だかりでも出来ていたのではないだろうか……

「どうした、憂鬱そうだな?」
「え……そう見えます?」
「あぁ。 いろいろあったし、疲れたか?」
「……まぁ、そんな感じです」

苦笑してなんとなく誤魔化す。
大して訝しむ様子も興味を持った様子も見せない先生は、そうか、とだけ言ってから続けた。

「……これ、いるか?」

そう、取り出したのは二枚のチケット。
可愛らしいフォントが一面に描かれているそれは、確かに先生が貰った遊園地のペアチケットだった。

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設定タグ:ツンデレ , ドS , オリジナル   
作品ジャンル:ラブコメ, オリジナル作品
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始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ayakaさん» Rの要素ございました? (2020年6月25日 14時) (レス) id: 6c149362e0 (このIDを非表示/違反報告)
ayaka - [R]つけてください (2020年6月24日 20時) (レス) id: 6bf9ec98ce (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - ゆうきさん» あぁああうれしいです!全力できゅんっと来るような描写をさせていただきます…無駄に多く長い小説をすべて読んでいただき感激のあまり…いや本当に感激です!(語彙力が足りない)ありがとうございます、頑張らせていただきます!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
始まりの神:トワイライト・ジェネシス(プロフ) - いか糖さん» 本当に長くなりそうなので飽きないって言ってくださってうれしいです……!ワンパターン・テンプレばかりの小説だというのにそんなことを言って下さるなんて…!頑張ります!! (2017年6月25日 13時) (レス) id: d48db6c0c1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆうき(プロフ) - コメント失礼します!先生かっこよすぎませんか!?一話から続けて読んでいますが、先生の一つ一つの動作にキュンキュンさせられてます!こんな先生本当にいたらいいのにな…更新がんばってください!楽しみにしています! (2017年6月11日 15時) (レス) id: 6c9139a3b2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:∧∧ネコミミ∧∧ | 作者ホームページ:   
作成日時:2014年11月14日 20時

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