この手も ページ31
.side Princess
「ここで少し横になって。今、かけるものを用意しますからね」
ありがとうございます、と言ったのは覚えているけど、あとはなんだか曖昧で、
そのうち意識が途切れてしまった。
目が覚めたのは大分日が落ちた頃だ。
「お目覚めですか」
なんて情けないんだろう
偵察みたいなことをしにきておいて途中棄権なんて。
だらしない自分に涙が溢れそうになった。
「お気になさらないでね。疲れが溜まっているのよ」
「はぁ……」
「お仕事が忙しい年頃ですものね」
岸くんのお母さんが岸くんとよく似た顔で微笑んだ。
「わたし、無職なんです」
どうしてか、そう口をついた。
「体を悪くしていて、働けないんです」
「まぁ、そうでしたの。お気の毒に.........」
「やっぱり気の毒に見えますか、わたし」
どうして、こんな所でこんな話をしているんだろう。
わたしの声が広間に響く。
少しの沈黙の後、お茶を入れてから、岸くんのお母さんは呟くように言った。
「人と違うことは、大変よね」
言葉の中に岸くんがいた。
客をもてなす顔から母親の目になったのを見逃さなかった。
こんな優しい顔で『大丈夫?』と訊かれたら、自分の情けなさを目の当たりにして堪らないだろう。
岸くんのお家の温かさを知ってしまった今だから、彼の自己嫌悪も想像ができた。
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作者名:つばめ | 作成日時:2018年11月15日 0時