５８: 理由 ページ8
翌日の朝、蛍の心配ばかりしていて道場に行くのを忘れかけていた。
心配しないで行ってこいと追い出されたからゆるゆると歩を進めていたが、レオが急に弓を引きたくなったとか言うのでハッとする。
相変わらず呼ばれた理由が分からなくて、マフラーに顔を埋めてまた悶々と考え始めた。
月「あ、そうだA」
「ん？」
月「天祥院英智って分かる？分かるよな。じゃあ知ってる？小さい頃会った、とか」
「………なんで？」
困惑半分驚き半分で聞き返すと、レオは俺がライブをしている間にあったらしい話を聞かせてくれた。
聞き終えて、なぜ敬人に呼ばれたのかようやく理解する。同時にため息が零れた。
仕方がないことだ。レオに何も話していない自分が悪いし、口止めもしていなかったから。
「……なるほど」
月「で？あのボンクラと知り合い？」
「顔見知りってところかな」
自分で聞いておきながら「ふぅん」と淡白な返事が返ってきて、思わず苦笑する。
それよりも、レオがあの写真をちゃんと持っていてくれていることが嬉しかった。いつかのレオの誕生日祝いで出かけた時の写真。
レオとルカ、蛍、俺の４人で撮ったやつだ。確かあの写真は…
「俺が引き取られた少し後、だったか？」
月「うん。あっ、そうだ！A今年で成人なのに…成人式は良かったのか？」
「別に良いよ、義務じゃ無いんだろ？……そういえばもう成人だっけ。実質２回留年してるんだもんな」
成人した男子が学生として高校に通っているなんてなかなか可笑しな話だ。いつかは笑いの種になれば良いんだけど…
突然立ち止まって「霊感が！」と騒ぐレオを引っ張りながら、童話の中のような幸福なお話を夢見た。
ーーー
「なずなぁ…どうしよう、敬人にいじめられる」
な「えっ、えっ？ぇえ…と」
零「これA、仁兎くんを困らせるでない」
「あーい。……はぁ」
珍しく教室に居る零に叱られ、机に突っ伏してため息を吐いた。いつもより体が重だるい気がするけど、ライブの後だからか…
ジッと俺を見つめる零に視線を向けると、訝しげな表情で口を開く。
零「A…体調でも悪いのかえ？」
「は？なんで？」
零「素直に頷くとはAらしくない。明日は槍でも降るのかのう…♪」
「お前バカにしてんだろw」
ふざけて心配そうな表情をする零に失笑して、予鈴を待った。
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作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2019年12月14日 3時
