７９: あの頃は ページ29
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月「蛍、体調悪くなったら言えよ？」
蛍「うん。ありがとうレオ兄」
もう少しで目的地に着く赤い電車に揺られながら、レオが心配そうな表情を見せた。
笑顔で応える蛍を見ると本当に元気そうで、日和とジュンの効果だったりして…なんて思ったり。
段々と速度を落としていく電車のドアがプシュー、と音を立てて開かれる。
電車を降りようとするルカの手を取って、後ろから着いて来るレオと蛍を振り返った。
「悪いな、せっかく病院から出られたのに俺のワガママに付き合わせて」
蛍「そんなの良いの。着いて来たくて来たんだから。ね、ルカちゃん」
ル「うん。でも蛍ちゃん、寒いし本当に気をつけてね…？」
心配ばかりされるのも億劫なのか、大丈夫だと呆れたように笑う蛍の背中をレオがそっと押す。
実は、行く場所は決めていなかった。決めたら面白くない。迷子にならない程度に自由にブラブラすることが目的だった。
ただ、クリスマスの醍醐味のひとつであるイルミネーションが豪華な場所ではあるので、遅くなるけど見て帰りたいものだ。
月「行く場所は？Aのことだから決めてない、とか言いそう」
「ピンポーン。その通りだよレオ。ご名答」
ル「じゃあどこに…」
戸惑いがちに訪ねてくるルカを不安にさせないために笑顔を浮かべた。
「この辺り確かショッピングモールとかあるから、そこに行ってみよう。入りたい店があったら言って」
蛍「うん、分かった。でも自分で遠出したいって言ったのに場所は決めてなかったんだ？」
「ああ……自由に歩き回ることが目的だからさ。なにも考えず、自由に」
小さい頃みたいに。
あの頃は何も怖いものなんて無かった。知らない場所だって自由に歩き回って走り回って、ずっとこのままなんだと思っていた。
成長するということは知識を得るということ。知識が増えれば何が怖いのかが分かってしまう。このままでいるなんて無理だということも。
そんなことを全く気にせず、ただ歩き回って笑いたかった。せめて今日だけでも。
こんなこと考えてるのを零に知られたら、また怒らせるだろうか。
クスリと笑みを零して、ルカが入りたいと言ったお洒落な店に足を踏み入れた。
月「……大丈夫か？」
「ん？何が？」
月「なんかボーッとしてたから」
「大丈夫だよ。ごめんな」
別にいいよと首を振るレオは、やっぱり少し、
思うところがあるらしい。
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作者名：瑠璃烏 | 作成日時：2019年12月14日 3時
