ちゃんとかわいいよ【川西拓実】 (ページ6)

今日:14 hit、昨日:3 hit、合計:16,198 hit

. ページ6

【14:18】

そろそろ、来るかな。

顔には出さない、というか見えてないだろうけど、ほんとはソワソワしてる。

わくわくと待っていると、ｺﾝｺﾝｺﾝとノック音がなる。

そしてガラッと開け放たれた後輩になるであろう人物を見据えて、

私は目を見開いた。

『ゆ、うと？』

｢失礼しやす、新しく配属？されました。平山優斗です。｣

あまり良い態度と言えなかったからか、周りの人達がちらほらと目配せを始めている。

私が、先輩だから。行かなきゃ。

そう思うのに、イスから立ち上がれない。

足が、震えているからだ。

｢えーっと？教育係サンが、出迎えてくれるって聞いたんすけど？｣

怖い、怖いけど。マスクも、眼鏡もしてるし、あっちからは、バレないよね。

私が普通に接してたら、多分、気づかないよね。

そう自分に言い聞かせてから、ゆっくりと立ち上がる。

そして大きく息を吸って、

『平山さん、私が、あなたの教育係になる者です。よろしくお願いします。』

と言った。

すると優斗は、えらそうにガツガツと足音を鳴らしながら近づいてきた。

｢あれ？お前…｣

ボソッと何かを言った彼は、目を細めて私の顔を凝視する。

そして私の眼鏡を抜き取った。

『きゃ、』

｢あはは、お前、Aじゃん、久しぶり。｣

私の頭をバンバン叩きながら大声で騒ぐ。

あぁ最悪。

｢ちっちぇーのも、陰気くせぇのも、何も変わってねぇじゃん。｣

｢こんな事故物件、別れて正解だったわ。｣

辺りがざわざわとしはじめる。

もう。なんでこんな事に…

顔からサーっと血が引いていくのを感じる。

周りのボソボソと聞こえる話し声で、頭が埋め尽くされて。

どうしよう。どうしたらいい？

もう、だめだ、何も考えらんない。

私の目から、涙がポロ、と落ちたその瞬間だった。

｢そんなに女の子を傷つけて、楽しいですか？｣

私が一番、安心できる声が室内に響いた。