ちゃんとかわいいよ【川西拓実】 (ページ3)

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あれからどれだけの時間が経ったのだろうか。

窓から見える景色は、真っ黒になっていた。

また、スマホの電源ボタンを押す。

【20:37】

3時間くらい、ずっと仕事をしていたんだ。

もう、フロアにも私と川西さん以外に人はいない。

うーん、ちょっと眠くなってきたし、コーヒー飲もうかな。

川西さんの方をちらりと覗くと、かなり集中しているみたいだったので、

音を立てないようそっと立ち上がる。

｢あ、コーヒー飲むの？｣

『へ！？あ、はい…。』

声かけられると思ってなかった。

変な声出しちゃったじゃん、恥ずかしい…

｢僕のもお願いしてもいい？｣

『あー、、了解です。』

あれ？そういえば川西さんって、

一人称【僕】なんだ。

なんか意外と可愛い…。

って何考えてるの私。

早くコーヒー作らなきゃ。

『コーヒー、ここに置きますね。』

一応声をかけて、川西さんの机にマグカップを置く。

そして自分の席に着き、コーヒーを飲む。

｢ねぇ、一ノ瀬さん｣

『はい、』

コーヒーをこくりと1口飲んだ川西さんが私の名前を呼ぶ。

もしかして、美味しくなかったかな。

｢なんで、仕事増えてるの？｣

『え？』

｢だから、この仕事、一ノ瀬さんのじゃないよねってこと。｣

『あぁ…』

気づいてたんだ。

だから、哀れに思って手伝ってくれたのかな。

『用事があるみたいだったので…』

｢じゃあこの仕事、一人でやるつもりだったの？｣

『うっ…』

痛いところを突かれる。

終わらなかったらどうすんだ、って思うよね…。

『すみません…。さすがに無責任でした。』

｢え？あ、そういう事じゃなくて…！｣

『へ？』

｢“手伝って”とか一言言ってくれたら全然やるのになって。｣

怒ってる、わけじゃない？

ただただ優しいだけなの？

なんでわざわざ…

そんなことを考えていたら、流したくもない涙が、目から零れ落ち始めた。

｢え！？ご、ごめん。泣かせるつもりじゃ、｣

『すみません、、』

ギョッとしたような顔で、川西さんが私のデスクに近付いて来る。

そしてハンカチを私に差し出した。

“大丈夫なので” そう告げようにも、息が詰まって声が出せない。

自分が想像している以上に私は泣いているみたいだった。

｢ごめんね、一ノ瀬さん眼鏡かけてるから、涙を拭いてあげられないや｣

そう言いながら、私の背中をさすってくれる川西さん。

思っているより大きくて温かい手の感覚に、

私はもっと泣いてしまった。