【名探偵コナン】あの店員の隠しごと

ニュース記事 ページ34

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「行ってきます」

「いってらっしゃーい」

「行ってらっしゃいのキスは？」

「しない。バイバイ」


そうして快斗は高校へ行った。

シーンとして静かで、どうしようもなく寂しくなる。

スマホでも弄って気分を紛らわそう、と自室に入りピンク色のスマホを手に取る。
このスマホは元々快斗くんのお母さんが使っていたという。怪盗なのに趣味が可愛らしいなと思った。

ニュースアプリを開いてみると、「一軒家が丸焼け 放火か」なんて記事が一番上に書いてあったのでタップしてみた。




ーー9月2日、19時30分に消防署に「一軒家が燃えている」との通報が入った。風が強く無かったこともあり幸い燃え移りはしなかったが、家は元の状態が分からないほどまでに焼けていた。警視庁によると、ガソリンを使用した痕跡が見つかったため放火の疑いがある、という。



これにはまだ続きがあったがわたしは最後まで読めなかった。


吐き気がした。

胸の中でどす黒いものが渦を巻いている。

逃げてしまったことへの罪悪感だ。

行き所のない憎しみ。

そしてみんなに「隠しごと」をする、悲しみ。

これが全部混ざって、真っ黒になって、ぐるぐると渦巻いて、わたしの心を重くする。

重たくて、重たくて、沈む。
底無し沼にはまって、出られない。
生きようともがいても沈み、謝ろうとしても沈む。
脚をバタつかせるほどハマっていく。

そこから出られなくて、怖くなって、自分を見捨てた。
新しい「水鳥A」の皮を被って、ポアロに足を運んだ。
生活費が足りなかったのは事実だけれど、本当はわたしを知らない場所でわたしを演じたかっただけ。

わたしは卑怯者。
家族のシの悲しみに耐えられなくて逃げた、卑怯者。

透さんを見てホッとした。
あぁ、わたしの好きな人たちに会える、って喜んだ。



「うぅ、うえぇ、っは、はぁ……」


息を吸うタイミングを掴ませてくれない。
涙なのか、戻したものなのか、よく分からない。

上げた便座を手で掴んで、反対の手で髪を後ろにまとめる。

黒い渦を無くしたくて、自分が嫌でしょうがなくて、家族が好きで恋しくて、もう色々と限界だった。

身体も精神も心も疲れていた。

いま休んどけってことだろう。


吐き気がおさまったので歯磨き粉を指に乗せて口に入れ、水道水を含んでゆすいだ。
すーっとしたミントの香りのお陰で、少し気分が良くなったような気もする。


わたしは自室のベッドに倒れ込むように寝転び、目を閉じた。

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