『例の件』 ページ28
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ベルモットは静かに、冷静にわたしの問いに答えた。
「貴女が『例の件』で死なずに生き残っているというのが、分かってしまったの。今頃貴女の家に下っ端が行っているかもしれないわね」
どさりと外のベンチに座らせられる。
ベルモットは、My angelが傷つくのを見たくないの、と何かを思い出すように俯いて言う。
「危機に陥ったPrincessは大人しく助けを求めることね。私はそろそろ戻らなきゃいけない……健闘を祈るわ」
ベルモットは同情の瞳をわたしに向け、帽子を深く被り直して去っていった。
言うだけ言って帰るなんてそんな無責任な、と一人残されたわたしは思った。
太陽の光を浴びながら長く息をつく。
思っていたよりも冷静でいられた。
ーー家族が組織の手によって、殺された、と言われたも同然なのに。
犯人とも言える人物と会ったのに。
アンサツ宣言をされたというのに。
わたしはベルモットにそう言われた時、「あぁ、だからか」と事故の謎が解けて安心した。
組織が自分の能力に気づいていない、と気付いて安心した。
結局は自分が生き残れれば良いんだ、と自分を軽蔑した。
家族の「死」への責任感を勝手に感じて、勝手に隠して、勝手に「水鳥A」を演じた。
陽が傾き、影が横たわる。
オレンジ色の世界に、陰がポツリとひとつ生まれた。
このまま全部吐いてしまいたい。
全部、全部、全部、流してしまいたい。
みんなのこと、知ってるんだよって。
みんなと仲良くなりたい。
心から笑いたい。
秘密にしていなきゃ。
まだ死にたくない。
逃げ出したい。
帰りたい。
怖い。
暴れ出そうとする、その気持ちに気づかぬフリをして、スマホに電源を入れた。
何度かタップし、スマホを耳に当てる。
震える手をぎゅっと握りしめて、深呼吸し、コール音に耳を傾ける。
ぷるるる。
いつものように聞くこの音が、今は死へのカウントダウンのように思えた。
「もしもし」
電話の相手が出た。
わたしは閉じていた口を開けて、言葉を発した。
「今夜、時間ある?」
大丈夫かな。
わたしの声、震えてないかな。
ちゃんと「水鳥A」になってるかな。
「えー?デートのお誘い?」
気づかれてないかな。
「もう。違うよー」
出来るだけ明るく。
声のトーンを上げて。
「いつも通り」に。
「ちょっと良いことを思いついたんだけど、手伝ってくれるかな、って」
へぇ、と電話の相手の興味を示す声が聞こえた。
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たんぽぽ珈琲(プロフ) - わーんいつのまにか30万hit超えてたー。嬉しいです。ありがとうございます。これからも名探偵コナンの夢小説盛り上げていきましょー! (2020年12月14日 22時) (レス) id: bfc4d62160 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - 明里香さん» 誤字の指摘、ありがとうございます。お恥ずかしい限りです……。明日までには直しますね。 (2018年11月18日 19時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - タイトルの掛け、「賭け」ではないですか? (2018年11月17日 23時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
明里香(プロフ) - 特製ミルクティーの話、誤字がありました。「こんな事始めて」ではなく、「こんな事初めて」です。 (2018年11月17日 23時) (携帯から) (レス) id: 85d4df75a2 (このIDを非表示/違反報告)
たんぽぽ珈琲(プロフ) - 星を見守る砂岩さん» きゃー!そう言って頂けて嬉しいです!!更新頑張ります! (2018年10月13日 22時) (レス) id: 24c9be7e32 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:たんぽぽ珈琲 | 作成日時:2018年8月23日 3時