【名探偵コナン】あの店員の隠しごと

いくつかの部屋 ページ22

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生温かい風が身体にまとわりつき、ポツポツと雨粒が肩に落ちて来て服を濡らす。
そろそろ梅雨入りかな、なんて思いながら車をロックし、彼女のポケットに入っていた鍵を使って一軒家のドアを開け、靴を脱いでお邪魔する。


「お邪魔します」


勿論返事は返ってこない。けれど返事の代わりに不思議な風が吹いた気がした。じめじめした生温かい風では無く、もう少し涼しいような、そんな風がひゅっと。

座り心地の良さそうな紺色のソファーが目に入ったので一旦そこにAを寝かした。




それから勝手に上がった家の中をキョロキョロと見回すと、色とりどりのマーカーで「子どものへや」と木の板に書いたものを掛けてあるドアを見つけた。そのドアを開けると、カビの臭いが鼻を刺激する。埃が舞い、鼻を通して肺に入るのが嫌でも分かる。ゴホゴホ、ハクシュンと咳と共にくしゃみが出て堪らないのでドアを閉める。

部屋の中には可愛らしいうさぎのぬいぐるみや、ブロック、ロボットなどが散らかっていた。その真ん中に、低いテーブルがあって、鉛筆と消しゴムが転がっていた。
カビ臭さと埃が無ければ、少し前まで弟や妹が遊んでいたと思えるほどの散らかり具合である。

リビングはソファーとテレビと布団の他に特に何も置いていないので綺麗だった。掃除もキチンとしているのだろう。

台所は一人分だけのお皿とコップが乾燥台の上に置いてあって、箸立てには二本の箸がさされていた。

「パパのへや」にはパソコンやノートなどが置いてあって、「ねるへや」には掃除機を使って空気を抜くビニール袋に入った布団が山積みになっていた。

これだけ見ればもう分かってしまう。彼女は「子どものへや」と「パパのへや」と「ねるへや」は使っていないということが、ハッキリとしてしまう。

「ねるへや」の敷き布団はカビ臭くなったりするから嫌々片付けた、って所で、「子どものへや」と「パパのへや」は入ると家族の事を思い出してしまうから入れないのだろう。

六人家族だったのにある日突然ひとりぼっち。そんな残酷なことを彼女は経験していたのか。




僕は一言も発さずにポケットからハンカチを取り出して冷水で濡らし、固く絞った。それを寝ている彼女の目の上にゆっくりと乗せると、冷たかったのか頭がぴく、と反応して揺れる。
そして瞼がゆっくりと開く。


「……あ、あれ」


起こしてしまったようだ。

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