五章 ページ5
「２号はさっき『マネージャーは親切心でおまんじゅうを俺たちの鞄に入れたつもりだった』って言ったんだよ？それなら、たとえ俺たちの誰かがマネージャーの鞄を開けるのに許可を取っていたとしても、自分の鞄におまんじゅうを入れてるなんてそもそも思ってないんだし、おまんじゅうを移動なんてしないはずでしょ？親切心で入れてるなら尚更、見られたって構いやしないんだから。言ってることが矛盾してるよ」
そうやって的をついた、もはやぐうの音も出ない意見に皆んな何も言えなかった。おふざけが過ぎてしまう彼の一面に惑わされ、いつもは忘れがちだったが、彼は男達きっての理系で、思考と整理に関してはお手の物だった。
そこで反論したのは意外や意外、八号だった。馬鹿が欠点で且つ取り柄。そんな彼が真っ向から七号に立ち向かうその勇気に、皆、驚いたことであろう。いや、本当は何も考えていないのでは…そんな一抹の不安を全員が抱えていたが、口に出す者はいなかった。
「でもさ、俺ら誰も許可取ってないのは事実じゃん？貴重な無罪派の、ち、じゃない２責めるのダメ！絶対！」
あまり建設的な反論ではないにしろ、そうやって二号を兄の様な眼差しで眺めながらフォローした八号だった。しかし弟が兄よりしっかりしていることは、間違いがなかった。彼は余裕そうに判ってるよ、そう言ってニヤリと笑った。
「だって有り得ないよね。もし仮に自分の鞄と間違えたとしても、開けた時に自分のじゃないことぐらい分かるでしょ。僕はそもそも無罪派なんて一言も言ってないから、どう考えてもこの状況はあの人がおまんじゅうを盗んだとしか考えられないよ。そんな考えが前の意見と矛盾しちゃったね、ごめん」
素直に謝る彼を見て不満そうな七号と焦る八号。
「えー！なんだよそれ、お前まで無罪派じゃないんかい！」
そんな姿に少しため息をつきながらも九号は辺りを見回し、再度問いかける。
「８はまあ置いといて、他のみんなはどうなの？今も有罪派？」
しかし皆んなが頭を捻らせたまま、しばらく発言をする者はいなかった。
そうして時が流れ、議論が停滞したとき、トントン、ノック音が沈黙を打ち破った。
「あれ？みんな黙りこくってどうしたの？」
そう言いながら入ってきたのは、ビニール袋をワサワサと鳴らす六号だった。
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作者名：田中 | 作成日時：2020年5月8日 21時
