田中 (ページ12)

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十二章ページ12

その時はまだ僕も全然いい案が思い浮かばなかった。シャワー室で喋ってたから、僕も大貴もびしょ濡れになっちゃって、そのまま部屋に戻って何してたの？って聞かれるのも困るから、とりあえずマネージャーの部屋に寄った。鞄を開けてタオルを探そうと思って、そこで初めておまんじゅうを見つけた。
　始めはそのおまんじゅうを盗んで部屋に戻そうかなって思った。でも、そんなことしたら何で一時的に部屋から消えたの？って部分が説明できないし、マネージャーさんの分まで盗むのは心が痛いし、彼らが食べられなくなるのもダメだと思った。僕の理想では、おまんじゅうを盗んだ犯人をうやむやにするつもりだったんだ。圭人は優しいからマネージャーが絶対盗んだ、なんて決めつけることはないだろうし、誰か一人が反対してくれてたら、事実はうやむやになる。そういう算段があったんだ。だけど、実際は本格的な話し合いが始まっちゃうなんて予想もしてなくて、バレちゃったけどね

　そう言って舌をちろりと覗かせて彼は苦笑いした。

　知念の提案は素晴らしいと思ったよ。山田が知念に甘いから、先に山田を呼ぼうって言ったのは俺だ。俺が圭人と光くんを見かけたって言ってしまったのは、ついうっかりなんだ。知念がさっきそこに圭人とヒカがいたよ。って教えてくれたのが頭にあって、つい山田に喋っちゃった。知念はまあ結果的に涼介が呼びに行ってくれたからって許してくれた。そこからはもう皆んなが知ってる通りだよ。

　話し終えた二人は今にも泣きそうで、そして同時に頭を下げた。
「ごめんなさい」
　そんな二人を責め立てる人はそこには居なかった。二人の頭を軽く叩きながら微笑み合う薮宏太と八乙女光。わしゃわしゃとその頭を撫でる中島裕翔。遠巻きで二人を見守る伊野尾慧と高木雄也。
「顔あげなよ！」
そう言って微笑む岡本圭人。そんな彼の声に顔を上げた二人を山田涼介がまとめて抱きしめてバーカ、言い放つ。
「怒らないの？」
そう聞く二人に優しく微笑んで
「怒るわけないじゃん」
と、答えた。そして二人にでこピンを食らわせると、低い声でこう言った。
「ダッシュでまんじゅう二十個買ってこい」
「やっぱ怒ってんじゃん」

これが後に饅頭事件として語り継がれるとか継がれないとか…