◎放課後、特等席 《シルクロード》 ページ1
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「『あっちぃ〜…』」
見事に重なる声と同時に、部活動に励む野球部の
凛々しい声が 開け放った窓から聞こえてくる。
「なんで夏休み中はクーラーの使用禁止なんだよ」
不満そうに呟くそいつが思いっきり
後ろに反り返るほどの伸びをしたため
椅子はギシギシと音をたてた。
『文句はもう聞き飽きたからさ
早くそれ終わらせてくんない？
そろそろ脱水症状で死ぬんだけど』
手でパタパタと首元を仰ぎながら
教卓の上に少し大げさに音を立てながら腰を掛けた。
めんどくせえ､とそいつはまた
机に向かい始めた。
8月上旬｡夏休み真っ只中｡
最高気温は32℃を超え､
蝉がひっきりなしにミンミンと鳴く｡
雲はひとつもなく、腹が立つほどの快晴。
そんな汗が落ちるような猛暑の中
私はこいつ、シルクと一緒に
夏休み終了後提出のレポートを
進めるために、学校に来ていた。
私は元々家で半分ほど進めていたから
シルクよりも早く完成させた。
私がレポートを終わらせた途端に
集中力を切らせたこいつの手は
なかなか進まず、かれこれ1時間30分は
待たされ続けている。
『まだ時間はあるんだから
わざわざ今やらなくてもよかったんじゃない？』
少しでも風に当たりたいと
座っていた教卓から離れ
窓際へと足を運んだ｡
｢後々やるのはめんどくせえだろ
だったら早めに片付けた方がいい｣
『その神経が理解できない』
集中力が戻ったのか､その後何回か
話題を降っても、おう、としか返ってこず､
窓の外に視線を落とした。
『… 』
「…」
長い沈黙だった｡
普通の人だったらきっと
なにか話さなきゃと必死になったり、
気まずいなあ、なんて落ち込んだり
するんだと思う。
でも、私はどこか
この沈黙が心地よかった。
無理をしなくていい関係。
ありのままでいられる関係。
今の私には、この距離が
ちょうど良かった。
『…』
暑い。溶けてしまいそうだ。
家に帰れば､クーラーで冷えた
涼しい部屋で休めるのに。
甘く冷たいアイスも
好きな芸能人が出てるテレビも見れるのに。
それでも､もっとここにいたいと
思ってしまう。
『…ばかだよね』
「誰がだよ」
突然投げかけられた言葉に
思わず肩を震わせた。
『独り言拾う暇があったら早く終わらせてよ』
そういって少し強めに肩を押せば
「ばーか。もう終わったよ」
少し強めにデコピンをされた。
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作者名：たま | 作成日時：2017年6月15日 22時
