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金糸雀色 ページ43




「起きて」

衣擦れの音と、鈴のような声音が聞こえる。す、と鼻を通るような心地声だ。
ゆさゆさと体が揺れる。いや、揺らされている。
自分の眠りを妨げるその動作に眉を無意識のうちに寄せた。


「起きて」


だがそんなことは御構い無しに声は続く。
寝ぼけなまこを開けることもせず唸った。機内は暖かく、外の寒さとの対比が瞼を重くする。ごそごそとその声から逃げるように動くと、ムッと不満げな声がした。これ以上はダメだな。


「起きてください_____先生」


観念して目を開く。
ソファのように柔らかいとはいえ、ベットよりも堅苦しい背もたれのせいで体があちこち悲鳴をあげていた。横に置いていた眼鏡をかけると、明度の差で頭が揺れる。


「……………おはようてるね」
「もう、先生遅いです。日本に着いちゃいますよ。」


少女の声の通りに横の小さな窓を見ると、高い高い青空と下に白い雲が見えた。
ここからはっきり日本付近とは分からないが前のモニターは確かインド洋よりも日本よりを飛んでいる。はあ、と欠伸をして革の手袋をつけた。




「まずは切嗣さん__父さんに会いに行きましょう。それから」


目を輝かせた少女は喜びに手を重ねる。見た目の大人らしさとは真逆の子供らしさが、彼女を幼く見せた。身長が伸びてもまだまだ愛らしい子供である。ふっと思い出して笑う。


「………士郎、元気かな。先生、電話では士郎、元気でした?」


嬉しそうに目を細めた姿の和やかさとは別に、自分はある『筈』の記憶を探した。
だが、筈というほどなので勿論あるはずはない。

「……………あ」
「先生?」

頭をかいて、もう一度思い出すがやっぱりない。


「……………電話するの、忘れてたよ」








機内に、駄目な大人の呆然とした声と、少女の驚愕の声が響いた。


銀朱色→←月白色



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タマモキャットガチ勢(白い犬)(プロフ) - ゆっくりさん» お!!!??慈悲深き神!?嬉しいです〜〜。勘違いじゃなければ短編集の方でもコメントを頂きましたかね?その一言で20話は投稿できます〜〜本当に感謝! (2019年11月21日 19時) (レス) id: 1561dbe350 (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくり(プロフ) - 大好きです。 (2019年11月20日 22時) (レス) id: a6728b9117 (このIDを非表示/違反報告)
タマモキャットガチ勢(白い犬)(プロフ) - ぐみさん» ありがとうございます!この作品を優先的に最終話まで行かせたい………ヴッ (2019年7月1日 17時) (レス) id: 1561dbe350 (このIDを非表示/違反報告)
ぐみ(プロフ) - 我が生涯にいっぺんの悔いなし(血涙)この作品も読ませてもらってます.....頑張ってください.... (2019年7月1日 2時) (レス) id: 46a85766e5 (このIDを非表示/違反報告)
赤眼のわかめ - はい!この作品も最後までついて行きます! (2019年6月30日 15時) (レス) id: abeb3a86ef (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:わんころ | 作成日時:2019年6月2日 16時

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