ある医者の手記 ページ38
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人々の慟哭の絶えない日々だった。いつも通りの部屋に叫びが反響し、幼児の死者のような目がよく見える。病院が無事だったのは不幸中の幸い。いや、それも雀の涙だ。
看護婦、医療器具共々少ないため適切な処置を全員に対して行うことはできなかった。中には処置の間に倒れていく人たちもいる。それでも医者は目を閉ざしてはいけない。南部に行った時の紛争を思い出せば幾らかは気が紛れる。此方の方がまだ現実味があるというものだ。
では、『彼女』について手記しておこう。
この手帳が誰の目に渡ることもなく、自分の死後は焼き消えることを誓約として血に誓う。
『彼女』は類稀に見る人種だ。
目が醒めるたびに薬を投与しなければ叫びのままあたりを崩落させる。自律神経系が乱れた子供でもこうはならない。一体どれほどの絶望を見ればこれほどの叫びが出てくるのか。数々の地獄を見たと思っていた自分だが、これは測り用がない。異端すぎるのだ。
まずその体。筋力や腕力に至るまで、余すことなく破壊に特化している。その細腕をどう使えばこのような惨状を生み出せるのか、数多の学者を集めても解明はできないだろう。
破壊は大抵夜に始まる。忘我のままに全てを潰すのを防ごうとした医師が何人か大怪我を負った。
昼の間は夜と打って変わって静かである。糸が切れた人形のようにくたりと倒れこみ滂沱の涙を流しながら一歩も動かなくなる。その端整な見た目も合わさって一枚の芸術品のようだが、ちゃんと生きてはいる。心配して精密検査をしたが、筋肉が弛緩しているのか体に力が入らないだけのようだ。鎖に繋がれたような姿は奇妙の一言では到底表せない。
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上記のように、彼女を人形と称しているが、あながち間違えではないのだ。
穿っていると言ってもいい。彼女の異端さにはそれだけの非現実さがある。
記憶がいつもリセットされるのだ。セーブせずに電源を切られたように無くなる記憶は彼女の生い立ちを調べさせることを拒否している。何処で生まれて、何をしていたのか、分からない。
金糸の髪と彫りの深い顔立ちを見れば異邦の血が混じっているのはそれとなく察する。だがそれだけだ。この冬木の街になぜ彼女は来たのか。子供に問うような事ではないが、彼女は時に老年の人間のような表情をするので返答がくるような気がする。憶測だが。
動くたびに、息をするために眉をしかめる彼女は死にたいと叫んでいるようだった。
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タマモキャットガチ勢(白い犬)(プロフ) - ゆっくりさん» お！！！？？慈悲深き神！？嬉しいです〜〜。勘違いじゃなければ短編集の方でもコメントを頂きましたかね？その一言で２０話は投稿できます〜〜本当に感謝！ (2019年11月21日 19時) (
レス) id: 1561dbe350 (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくり(プロフ) - 大好きです。 (2019年11月20日 22時) (レス) id: a6728b9117 (このIDを非表示/違反報告)
タマモキャットガチ勢(白い犬)(プロフ) - ぐみさん» ありがとうございます！この作品を優先的に最終話まで行かせたい………ヴッ (2019年7月1日 17時) (レス) id: 1561dbe350 (このIDを非表示/違反報告)
ぐみ(プロフ) - 我が生涯にいっぺんの悔いなし(血涙)この作品も読ませてもらってます.....頑張ってください.... (2019年7月1日 2時) (レス) id: 46a85766e5 (このIDを非表示/違反報告)
赤眼のわかめ - はい！この作品も最後までついて行きます！ (2019年6月30日 15時) (レス) id: abeb3a86ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：わんころ | 作成日時：2019年6月2日 16時
