弟切草 ページ35
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「_____先生?」
静寂に響いた声は私だった、動揺が足からゆるりと蛇のように上がってくる。
寒気と頭痛で脳が崩れていくような錯覚が頭をよぎった。痛い、訳がわからない。痛い。ー
トワイス先生は眉ひとつ変えず、言葉を淡々と紡いでいく。
「忘れたのかい?___ああ、いいさ。此れは私がしたのだからな。」
何を言っている?
_____■せ
「君は何人傷つけるんだい?」
どういう事?
_____■せ
「君の力がどれだけの恐怖をはらんでいるのか理解しているのかい?」
どういう意味
_____■せ
脳がふつふつと煮える。怒りと慟哭で、霧に包まれたように掠れていく。
震える私の体も茫然としたままの私の顔も、何も目に入らないように告げる。
対談だった、座談でもない、会談でもない、双方の目が交わった。
トワイス先生は言葉を止めない。
「__なんで、じゃないよ。士郎君の手が腫れてるのは君のせいじゃないのかい」
「違う、此れは瑩音じゃ!!!」
「君は、右利きだろう?右手を握れるのかい?」
ぼろぼろと崩れていく、ゆらゆらと揺れていく。髪がザワザワと風に揺れた。
旋風が吹く、ここだけ切り取ったかのように冷たく、肌を裂く。
痛い、頭が痛い、なんで。頭をわんわんとこだまする声は不愉快だった、痛快だった。
____奪っていくよ。こいつは奪っていく
何を?
____■せ
なんで?
脳を支配する声は従順だった、声を張り上げることもなく冷静だった。
冷たい水のようなさざめく声。分かった、理解した。目が冴えるように濁っていく。
血が泡立つようだった、どろどろと体が溶けてしまいそうな思考。
私から奪う。あの月はいつだって、私の存在を否定する。私の、全てを、私の未来を。
従えばいい、全て放棄するんだ。私は正しい、これはあるべき、規則を守れ。戒めを。
そうだ、もういい、こいつは、_____
「瑩音!!!!」
_____殺せ
・
「_____」
発した声はまたもや私だった。霧が晴れていく。頭痛が搔き消える。
振り上げられた拳も私のもので、かちりかちりと鳴る長い爪も私の物。
手についた赤は先生のものだった。ぴちゃんぴちゃんと音が聞こえるように血が滴る。
私の拳を掴んだまま、先生は目を細めた。
「ほら、君はまた誰かを傷つける。」
無責任な脳の声は、聞こえなくなってしまった。
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タマモキャットガチ勢(白い犬)(プロフ) - ゆっくりさん» お!!!??慈悲深き神!?嬉しいです〜〜。勘違いじゃなければ短編集の方でもコメントを頂きましたかね?その一言で20話は投稿できます〜〜本当に感謝! (2019年11月21日 19時) (レス) id: 1561dbe350 (このIDを非表示/違反報告)
ゆっくり(プロフ) - 大好きです。 (2019年11月20日 22時) (レス) id: a6728b9117 (このIDを非表示/違反報告)
タマモキャットガチ勢(白い犬)(プロフ) - ぐみさん» ありがとうございます!この作品を優先的に最終話まで行かせたい………ヴッ (2019年7月1日 17時) (レス) id: 1561dbe350 (このIDを非表示/違反報告)
ぐみ(プロフ) - 我が生涯にいっぺんの悔いなし(血涙)この作品も読ませてもらってます.....頑張ってください.... (2019年7月1日 2時) (レス) id: 46a85766e5 (このIDを非表示/違反報告)
赤眼のわかめ - はい!この作品も最後までついて行きます! (2019年6月30日 15時) (レス) id: abeb3a86ef (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:わんころ | 作成日時:2019年6月2日 16時