3話 ページ3
「おん、ええで。」
頭の中でさっきの捏島君の台詞を反芻する。
意味を咀嚼して嚥下するまでに結構な時間がかかってしまった。
はくはくと動かした口から漏れ出すのは赤子の喃語のようなソレで。
意味を理解した瞬間、ぽぽぽっと顔が火照る。
「あ、ありがとうございます！」
自分で言うのも何だが、足の速さには自信がある。
これでも引退試合を終えた陸上部だぞ。
鬱と出会ったのもこの部活だ。
意外だよね、あんな根暗のもやしが陸上部って。
しかもまぁまぁ速いのがさらに腹立たしい。
閑話休題。
現在進行形で走っている訳だが。
捏島君の前で恥を晒すワケには行かないので、いつもより心做しか振る腕に力が入る。
体も軽い様な気がする。
もうゴールは目の前、ちらと捏島君を見遣ると目が合う。
刹那、襲ってくる浮遊感。
何が起こったか理解する前に、鋭い痛みが走った。
転けた？
患部を見ると想像以上に痛々しい光景が目に飛び込む。
経験したことある人も多いのではないか。
擦りむいて、グラウンドの砂が付着しているアレだ。
見ているだけでSAN値ピンチだよね。
何てふざけているから無事に見えるかもしれないが、ご存知の通り結構痛いのだこれ。
暫く動けずにいると、捏島君がこちらに近づいてくる。
気づけば私は口走っていた。
「すす、すいませんッ！」
わざわざ見ててくれたのに、迷惑かけてばっかりじゃん私。
そう考えると悔しくて情けなくて、じわっと涙が滲んだ。
「ア？何がや。ンなことよりとっとと保健室行くで。」
それもそうだ。でも…
「それやと捏島君、走れないじゃないですか。」
いつもなら、捏島君が話しかけてくれた！と大喜びするだろう。
しかし、今の私にそんな余裕はない。
痛みのお陰と言うべきか、所為と言うか、熱で浮かされた頭はクリアだ。
「俺はええねん。」
これが鬱の言っていたコネシマワールドか。
軽く微笑んで立ち上がろうとした。
そう、立ちあがろうとしたのだ。
ズキズキした痛みが足に走り、うまく立ち上がれない。
どっか捻ったかもしれない。
背中を冷や汗が伝う。
一瞬の出来事だった。
捏島は一つ溜息を吐くと、私を背負った。
…ワタシヲセオッタ？
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作者名：あるかろいど有機 | 作成日時：2024年3月9日 17時
