八十三 未練 ページ33
反射的に私は声のする方へ片足を踏んだ。
それと同時に背後から腕が伸び、私の体を強く引き寄せた。
「では私のこの感情でさえも嘘だというのか──……⁉」
視界に青色のふわっとした髪が入る。
「この感情はAの未練で作り出された偽物なのか……?私が、個人として想ったものではなかったというのか……?」
「オ、オロチさん……?」
振り向こうとして見えた瞳に私は思わず顔をそらした。
「私はこの感情がAの未練で生まれた、作られたものだとは思いたくはない。未練が晴れたのなら元の欠けた世界に戻る必要などないはずだ……。この世界には愛してくれる両親がいる。信用できる友がいる。心から笑えることができる。欲しかった物が全てある。私だってAを特別に想うことができる……っ。Aの為なら人になる覚悟だってできている」
オロチさんは片手で懐を弄ると手のひら程の小瓶を取り出した。
それは私が電車でいつの間にか持っていたものでオロチさんは片手でコルクを外した。
コルクは私の足にあたって、コロコロと桜の海に潜り込んだ。
「違う……違うよ……‼」
私は両手でその瓶を持った手を掴み、必死に指を外そうとしたが、オロチさんの力には到底敵いそうになかった。
突然後ろから押され、そのまま倒れ込んだ。
花びらがクッション代わりになって痛いということはなかったが、体を無理矢理仰向けにさせられ、両手を強く掴まれた。
同じ肌、同じ髪、同じ手、同じ足、同じ姿。
同じ瞳なのに、その瞳の色は私は好きじゃない。
じんわりと滲んだ世界にいるのは愛した人と同じ姿をした誰か。
「私が人になって力がなくなっても、Aを守ることはできる。死ぬまで想い、添い遂げる覚悟もある。望んだ通り人として生きることも叶う。だから……」
そこまで言ってオロチさんは口をつぐんで強く掴んでいた手を離し、体を起こした。
「──では、私はどうしたらいいんだ」
オロチさんは私から退くと顔を伏せた。
私は目元を擦って体を起こした。
「私が居たのは、本当の世界だよ……。私を弾いた世界は私が居なくても廻り続けた。私はその中でオロチさんに幸せを貰ったの……」
私が顔をあげた瞬間、大きな黒い影が覆いかぶさり体を細いもので掴まれ私を持ち上げた。
ばさりと大きく羽ばたく。
見上げると大きな烏の様な影が私を足で掴み飛んでいた。
「は、離して……っっ‼」
私は足から逃れようともがくが、爪は私の体にどんどん食い込んでいく。
「──オロチさん……っっ」
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剣城京菜(プロフ) - れいちゃそさん» ありがとうございます……!リアルが忙しく中々更新できませんが、完結までは投稿しますのでよろしくお願いします……!! (2020年8月8日 23時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
れいちゃそ(プロフ) - コメント失礼致します。つい最近こちらの作品を見つけて、シリーズの初めから読ませて頂きました!更新楽しみにしてます。 (2020年6月29日 2時) (レス) id: f8d9f5b45d (このIDを非表示/違反報告)
剣城京菜(プロフ) - いえいえ~ (2020年5月10日 20時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
なつ(プロフ) - そうなんですね!教えて下さってありがとうございます! (2020年5月10日 19時) (レス) id: 9574458ee9 (このIDを非表示/違反報告)
剣城京菜(プロフ) - なつさん» あらかじめ溜めてます。この作品は既に完結まで書いてます。ただサブタイトルは後回しで難航しがちですが……(汗) (2020年5月10日 19時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:剣城京菜 | 作成日時:2019年12月21日 18時