二百十六 感情の代用 ページ16
妖怪エレベーターを使い、おおもり山から男の子の家に向かった。
人間界の空は鮮やかなオレンジ色で何度も目にした色をしていた。
男の子の家に着くと男の子は手を離し、こちらを振り返った。
「じゃあね、ばいばい」
「うん」
男の子は駆け足で玄関の前まで走った。
「じゃーな、A」
そう言って大きく手を振り家に入っていった。
「最後まで失礼な奴」
言いながらも悪い気はしていなかった。
「えんらえんらさん少し遅めにと言っていましたが、何かあるのでしょうか」
オロチさんは空を見上げ、暗くなるまでと言った。
「オロチさん……怒らないんですか」
私が勝手に脱走した割にはあまりにも素っ気なく、こちらから聞いてみるとオロチさんは私が脱走したことは最初から知っていたと言った。
「前に妖気について話をしたことを忘れたのか。Aの妖気は他より特別で分かりやすい。だから部屋を出たところから知っていた」
「それ本当に最初からじゃないですか……」
必死に隠れて行ったのは無駄だったようだ。
「こちらの領土も増え絶対とは言えないが少しくらい1人での行動は良いだろうと目を瞑った」
「そうでしたか……」
「まさかとは思って後から様子を見に行ったが案の定厄介なことに巻き込まれていたな。ところで外に出た用事は何だったんだ」
流石に目的までは知られていないらしい。
オロチさんの為に、なんて言える訳が無くただの散歩だと誤魔化した。
「他の妖怪も増えていたのはそういう理由ですか」
「ああ。今までの妖魔界はあんなものだ」
夕日の光が長く影を作る。
無意識に歩いていると私の家があった場所にたどり着いた。
まるでそこだけ時が止まったようだった。
立ち止まりじっとそこを見つめる。
今立つこの場所で死んだとはあまりにも現実離れし過ぎて実感が沸かない。
何度だって記憶を辿ってはそれを繰り返す。
「……いったい‼」
腕に強い衝撃を受け、その方向を見るとオロチさんが不貞腐れたような顔でこちらを見上げていた。
「……随分と間抜けな顔だ。そろそろ妖魔界に戻るぞ」
オロチさんはそう言って私の指先を引き歩き出した。
気を使ってくれたのだろうかと考えながら私は夕日がかった目の色を盗み見た。
指先ばかり温かくなっていく。
指先を握った手をぎゅっとを握り返すとオロチさんは一度手を緩め、しっかりと手を握り直した。
言葉に表せない感情を飲み込んで嬉しいという言葉で代用する。
言葉には出せず、自身の胸の中へと。
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剣城京菜(プロフ) - aruya100さん» ありがとうございます!!頑張ります!! (2019年2月8日 9時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
aruya100(プロフ) - いつも見させていただいてます。更新頑張ってください!期待してます! (2019年2月4日 23時) (レス) id: b60ccdc28b (このIDを非表示/違反報告)
剣城京菜(プロフ) - yukiさん» ありがとうございます!!頑張ります!! (2019年1月30日 19時) (レス) id: 6021a386db (このIDを非表示/違反報告)
yuki - 作品楽しませていただいてます。続き頑張って下さい! (2019年1月30日 8時) (レス) id: 01053ecf80 (このIDを非表示/違反報告)
紅桜(プロフ) - 剣城京菜さん» 頑張ります...! (2019年1月23日 19時) (レス) id: 84fb339dd8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:剣城京菜 | 作成日時:2019年1月21日 21時