さくらの営み 5【オロチ】 (ページ14)

今日:13 hit、昨日:0 hit、合計:26,317 hit

二百十四許さなくていいことページ14

「あ、ちが……その、男の子を追いかけないといけなくて……」

「……外側だ。急げ」

オロチさんは私の手を引っ張って走り出した。

走り続けていると道のど真ん中で佇む男の子がいた。

駆け寄ろうとしたらオロチさんに腕で行く手を阻害された。

「……手遅れだ」

「ぇ……」

男の子はゆっくりとこちらを振り向く。

その顔は黒く塗りつぶされていた。

「ｶﾏｳﾅ……ﾀﾞﾚﾓｼﾝｼﾞﾃﾔﾙﾓﾝｶ……」

男の子はゆらり、ゆらりとこちらへ歩いてくる。

「A、早く元に戻してやるんだ」

「……分かってる」

私は男の子に手をかざした。

手のひらから花びらが風の波に乗り男の子の体にまとった。

「ﾕﾙｾﾅｲ……ﾅﾉﾆ、ﾄﾞｳｼﾃﾕﾙｻﾅｲﾄｲｹﾅｲ……」

花びらは黒く染まり、粉々に落ちていく。

男の子は私にぶつかると顔を俯かせた。

「ﾄﾞｳｼﾃ……ﾄﾞｳｼﾃ……ﾎﾞｸﾊﾜﾙｲﾉ」

「……悪いの」

私は男の子に目線を合わせるようにしゃがんだ。

「ﾄﾓﾀﾞﾁ、ｲｼﾞﾒﾀ……ﾅﾆﾓｼﾃﾅｲﾉﾆ」

「いじめたのは……誰？」

私は男の子の両手を握り、できるだけ優しく聞いた。

男の子はもごもごと口ごもらせるばかりだった。

「あなたはどういう気持ちだった？」

「……ｵｺｯﾀ。ｶﾅｼｶｯﾀ。ｿﾚﾅﾉﾆﾕﾙｻﾅｲﾄｲｹﾅｶｯﾀ」

男の子は許さないといけないと自分の意思でないことを呟く。

「ｾﾝｾｲﾄ、ﾊﾟﾊﾟﾄﾏﾏﾆﾊﾞﾚﾀ。ｲｼﾞﾒﾅｸﾅｯﾀ。ﾀﾞｹﾄﾞｲｼﾞﾒﾀﾄﾓﾀﾞﾁｦﾕﾙｻﾅｲﾄﾀﾞﾒｯﾃ……ﾈｪ､ﾄﾞｳｼﾃﾅｲﾃﾙﾉ」

そこで初めて私がぼろぼろと涙を流していることに気がついた。

この子はあの頃の私と重なった。

「あなたはいじめた友だちに何もしていないんだよね」

男の子は小さく頷く。

「そんなの許さなくていい。だってそれは許せないこと。一生その痛みを抱えないといけないんだよ。ずっとずっと疑ってしまうの」

「ﾕﾙｻﾅｸﾃｲｲﾉ……？」

「許さなくていい」

涙が黒く塗りつぶされた顔を溶かしていく。

「ほﾝﾄに……？僕悪ｲ子じゃなｲの？」

「全然悪い子じゃないよ。だけどね、今すぐじゃなくてもきっと信じたいって思える人がいるから。その時はふりなんて必要ないの。だから……ね？大丈夫だよ」

男の子はしゃくりあげながら私に抱きついた。

背中を撫でながら私は自分はどうなのか考えていた。

「A、襲った奴は片付けたがそろそろ人間界に送ってやらねばならない」

「……せめて泣き止んでからにしましょう」