さくらの営み 5【オロチ】 (ページ12)

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二百十二拒否ページ12

その目に自分を重ねては心がぎゅっと苦しくなる。

「私は人を殺める力はないよ。あるのは怪我を治す力だけ」

私は男の子の右ひざに手をかざした。

手のひらからひらひらと桜が舞い、傷口に張り付いた。

花びらが溶け込み、傷口は綺麗にふさがっていった。

頬にも擦り傷ができているので治そうと手を伸ばすと、男の子ははっとした顔をしてまた私を突き飛ばした。

「さ、さわんな……‼お、おばさん」

「お、おば……」

まだ20歳にも満たってもいないのにそんなことを言われるとは思わなかった。

私がショックを受けたその隙をつき、男の子は走って逃げてしまった。

最悪なことに走っていった方向は外側。

境までは辿り着くことはないだろうが危険に近づくことには変わりない。

私は慌てて男の子のあとを追い走り出した。

「はぁ……はぁ……」

小学生の体力にすら負けるとは情けない。

気づけば私と男の子の距離は相当離れていた。

ついつい足が止まってしまう。

「うわあ‼」

叫び声に顔をあげると男の子はこちらに向かい走ってきた。

その後ろには小型の黒魔が一体。

男の子が私を避けようとしたが私は咄嗟に目の前に立ちはだかった。

思い切りぶつかった体を支え、近くに立てかけてあった木材を1本蹴り飛ばした。

すると立てかけてあった木材は全て倒れ黒魔を押しつぶした。

木材の隙間から黒い液体が流れる。

どうやらやっつけたようだ。

「な、なんだよ……」

声を震わせ怯える男の子を私は手を繋ぎ連れ戻った。

他の妖怪もちらほら見かけるところまで戻ると男の子は私の手を振りほどいた。

「また逃げる気？逃げたところでまた危険な目に合うだけだよ」

男の子は逃げ出そうとした足を止めた。

私はしゃがんで男の子の手を軽くつついた。

「私といれば大丈夫」

少ししして男の子は振り返ると私の着物の袖の端っこを掴んだ。

何故ここにいるか聞いてみたところ、道に迷って気づいたらここにいたらしい。

そこまでの記憶ははっきりしているらしく、私のように来るべくして来た訳ではないらしい。

「じゃあ……私が家まで送ってあげるね」

そう言うと男の子は首を激しく横に振った。

名前を聞いても男の子は何も答えなかった。

「じゃあずっとここにいる？」

それでも男の子は拒否をする。

周りの妖怪に怯え、ここに居続けるのは疲れてしまうと一旦屋敷に戻ることにした。

屋敷に戻る途中、男の子は突然しゃがみ込んだ。

「疲れたんだけど」

むっとした顔でこちらを見上げる。

「……私だって暇じゃない」