百七十三 別の言葉 ページ23
しばらくして部屋の扉が開いた。
「入っていいにゃんよ」
「お、お邪魔します……」
恐る恐る部屋に入ると中には服を着た天野君が何事もなかったかのように椅子に座っていた。
「い、いいいいらっしゃい」
動揺を隠しきれておらず、動きの一つ一つが不審だった。
「……さっきのことは互いになかったことにしましょう」
「と言いつつあーた、めっちゃ顔そらしてるじゃないですかぁ〜っ」
ウィスパーさんが私の顔をじろじろと見た。
「行為自体はともかく隠すべきとこは見えませんでしたし、ただ単に私が男の子の肌を見慣れていないからどう接していいか分からないからだと……」
「ともかくじゃないし論点ずれまくってるんだけどな……いった‼」
天野君がジバニャンさんに叩かれ、頭を押さえる。
「ケータはもう少し大人になれにゃん‼」
「そうですよケータきゅん。それにしてもこちらの可愛らしい方はケータきゅんのお知り合いですか〜？」
ウィスパーさんは意味深に笑いながら私の顔を舐め回すように見つめた。
私は自分の記憶違いなのか、一度思い出してみたがどうにも記憶違いではないようだ。
「桜風Aさん‼前にも駅前で会ったでしょ？」
「ぁ、あー‼知ってますとも‼知っておりましたよ‼」
ウィスパーさんは顔を物凄いそらし笑って誤魔化していた。
「あの、そのことですが……。私、死んだ身なのでもう桜風とは名乗りません」
そう言うと一瞬天野君の顔が引きつった。
「……じゃあ、もう気づいたってこと？」
「はい、あの日別れたあとに知りました。そのあとのことは省略しますが、曖昧な存在からついこの間妖怪になりました。天野君は私が死んだ身ということに気づいていたようですが……」
「それは……長いことニュースになってたからね。他人が言えることじゃないって言えなかったんだよ。……淡々と話すけど未練とか、ないの？」
その答えに考える必要もなかった。
それはとっくに出ているものだったからだ。
「未練はないと言ったら嘘になります。凄く悲しいです。でも、妖魔界も妖怪も中々悪いものではありませんよ。だって妖怪も人間と同じように心を持って生きていますから……。それを知ったのはす……ぁ、いや……その……ある方がいたからといいますか……」
知ったのは誰が居たからなのか。
それははっきりしている。
だけどそれを別の言葉にしてしまうのは恥ずかしくて言えなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 29人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「オリジナル」関連の作品
この作品を含むプレイリスト ( リスト作成 )
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：剣城京菜 | 作成日時：2018年12月10日 18時
