百五十七 1歩 ページ7
もう、言えることはないとオロチさんは口をつぐんでしまった。
「……私、ちっとも恨んでなんかいませんよ。無差別のいじめのせいでいろいろ気持ちとか塞ぎ込むようになった節はありましたが、それでも私は人のせいにして責めることはしたくないと思っています。だってそんなことしても気持ちが晴れる訳ではありませんから……。それと逃げ出したのは仕方ありません。だって"生きて"いるんですから……」
オロチさんはパッと顔をあげると口角が少しだけあがった。
「……ああ、そうだな」
「オロチさんはこれからどうしたいですか。……オロチさんが良ければですが、もう一度、やり直したいです」
オロチさんはテーブルの中から手を出し、手袋を外し前へ差し出した。
「もう一度、Aの側にいさせて欲しい」
「──お願いします」
私はその真っ白な手のひらに手を重ね、強く握りしめた。
甘味処を出て屋敷へ戻る道を辿っている途中、大きなガラス扉にうつる自分の姿を見た。
じっと自分の目を見つめると、目の中にある花がくるくると回っている気がした。
「……どうした」
私が立ち止まったことに気づかず歩いていたオロチさんがこちらへ歩いてきた。
「……あの、オロチさん。その、殴ってしまいすみませんでした」
深く頭を下げるとオロチさんはその頭を優しく撫でた。
「気にするな。それに相当手加減しただろう。あまり痛くはなかった」
「ほ、本気でした……」
するとオロチさんは頭のてっぺんを指で強めに押した。
「い、痛いです……」
頭を押さえ、2、3歩程距離を離れた。
「これであいこだ」
オロチさんは嬉しそうに笑う。
どうしてか私はそんな姿を見て、心がもやついた。
「……私、もう少し変わります。逃げてばかりではよろしくありませんから。気づかないふりするのはやめます」
もう一度やり直す為に、もう一度生きる為に、私は1度目の人生で欠如したものを拾い集める。
「私、ヒカリオロチさんにお返事します」
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作者名:剣城京菜 | 作成日時:2018年12月10日 18時