さくらの営み １【オロチ】

十一 鼻息荒い奴 ページ11

ちゃんと髪も体も洗い、そろそろ出ようかとお風呂場から出ると、脱ぎ散らかした服はなくなっていた。

代わりに隣の着替えを入れる籠の中に大きなバスタオルが1枚入っていた。

拭くものもなく、仕方なくそれを使うことにした。

バスタオルはあれど着替えはない。

空き家と言っていたし、どこかに着替えがあるとは考えにくい。

それに知らない人の服を拝借するのも気持ち悪い。

と言ってもずっとここにいる訳にも行かず、タオルを体に巻いて出ることにした。

お風呂場から出ると男の子が玄関の扉を開けて誰かと話している。

背中で隠れて見えないが、こんなはしたない姿妖怪と言えど見せられないなと思いお風呂場に戻ろうと振り返った瞬間、


「ほらやっぱり居るじゃないですかぁ〜‼」


さっきお風呂場で見た妖怪が物凄い勢いでこちらへ駆けてきた。

慌ててお風呂場へ駆け込み、扉を手で押さえた。

どんどんと扉を叩かれ、引っ掻かれ、死にものぐるいだった。


「ちきしょー‼」


少しして叫び声が聞こえたと思ったら扉を叩く音も、引っ掻く音も荒い鼻息も聞こえなくなった。

そして妙に小さなノック音が3回。

そろそろと扉を開けると金色の瞳と目が合った。


「……もう行ってしまった」

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