椿の口づけ ２【オロチ】

五十八輪 ページ8

「だって行きたそうな顔してたもの〜」


えんらえんらはにこっと微笑むとワンピースのファスナーをおろした。

浴衣を被せられ，ワンピースがばさりと足元に落ちる。


「人間界の夏祭りとそう差はないのだけれどきっと楽しいと思うわ〜」


えんらえんらは手際良く着付けをする。

その姿がとある人物と重なった。


「......ママ」


溜息とさほど変わらず，言葉はすっと消えていく。


「別にオロチは怒ってる訳じゃないからお願いすれば着いてきてくれるわ〜」


「......そうなのかな」


こんなのはいつ以来だろう。

そういえば夏祭り自体まともに行ったことないっけ。


「はい，じゃあ行きましょ〜」


襖を開けるとオロチは私の顔をじっと見つめた。


「......はぐれると面倒だ」


オロチはそう言って私の左手を強く握った。


「これ着替えだから，その浴衣もあげるわ。それじゃそろそろ親方様のところへ帰らないと〜」


えんらえんらは最後に私に笑いかけると煙になり，漂い消えてしまった。

軽く手を引かれ，オロチの方を見た。


「行かないのか」


「......行く」

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