夜桜語り 2片【オロチ】

夜桜71 ページ21

バッグを椅子の背もたれにかけ、どすんと腰を掛けた。

態度の悪い私にオロチは落ち着けと言わんばかりに頭をぐりぐりと撫でつけた。


「も、もういい……」


落ち着いてくると今度は恥ずかしさが来て、私はオロチの手を払った。

脱力し枕に顔を埋めた。

雲がかった気分にもやもやとし、私は気づくといつの間にか寝ていた。

遠くに声が聞こえる。

忘れかけた声に必死に耳を傾けてみる。


『本当にごめんな。出来るだけ早く帰ってくるからな』


パパの声だ。

暗闇から光が漏れ出し、玄関先の光景を映し出す。

幼い私は俯いたまま、黙ったまま。


『Aちゃん、行ってらっしゃいしようね』


ママとおばあちゃんが背中を急かすように押した。

少しして幼い私は顔をあげた。


『いってらっしゃい、パパ』


まるで事前に録音していたかのように言葉が発される。

貼り付けた笑顔のまま、私はそっけなくパパに背を向けた。

そしてふいに戻る表情になにも感じなかった。

嫌い嫌い嫌い。

ずっと心の中で呟いた。


「……嫌い」


パパが嫌い。

毎月毎月送ってくる手紙が嫌い。

写真が嫌い。

仕事優先なのが嫌い。

それなのに鬱陶しい程構ってくるのが嫌い。

嫌い嫌い嫌い嫌い。


「……だいっきらい」

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