夜桜語り 2片【オロチ】

夜桜66 ページ16

最後にパパに会ったのはいつだっただろう。

最後に遊んでもらったのはいつだっただろう。

覚えがあるのはお土産話を楽しそうに話す姿ばかり。

最後に抱きしめて貰ったのはいつだっただろう。

深夜3時。

電源を入れたかのように起き上がると私は寝ているオロチを起こさないよう、静かに部屋を出た。

１段１段音をたてないように階段を降り、物置と化した部屋へ入った。

暗闇の中、手探りであの本棚へ向かった。

アルバムを手に取り、部屋を出ようと本棚から離れると突然部屋の明かりがついた。


「……こんな時間になにをしている」


「ぁ、えその……写真取りに来ただけ……」


これは本当のことだ。

だけど目的は他にもあった。


「本当にそれだけの目的だけでわざわざこんな夜遅くに来たのか」


昼間に見たこの写真のこともあり、オロチは不審がる。


「……私には言えないのか」


そう言ってオロチは悲しそうな顔をした。


「そういうわけじゃないけど……ただ単に気になって眠れなかったの。なんか……気持ち悪いし」


ただ単に気になった。

それも本当だ。

オロチが思っていることと私がこの行動を起こした理由が一致しているはずだ。

だけどオロチはそれを言わないし私もそれを口に出さない。

それが本当のことならばきっと私は悲しい気持ちになる。

部屋に戻ると電気をつけてベッドに座った。

引き出しの中から除光液とティッシュを取り出した。

ティッシュに除光液をかけて恐る恐る下から上へなぞらえる。

現れた顔、それは見覚えのあるものだった。

考えていた事は杞憂に過ぎなかった。


「……ただの落書きだ」


オロチは呆れたように深くため息をついた。

記憶の奥の奥から這い上がってくるもの。


「落書きじゃない。……本気だよ」

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