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海真side
「吸入、した方がいいんじゃないか?」
息苦しさで周りの音がぼんやりしている中、なぜか蓮のその声だけはハッキリと聞こえた。
止まらない咳にぐったりしながら彼を見ると、蓮の方が泣きそうな顔をしていて。
……ああ、だから知られたくなかったのに。
優しすぎるコイツがこんな顔をすることくらい、簡単に想像できてしまったから。
「…っゲホッ、ん、」
小さく頷くと、蓮はすぐに何の躊躇いもなく俺のカバンへ右手を突っ込んだ。
さっきまで背中を撫でてくれていたその手が離れるのは何となく寂しかったけど、彼の左手は俺が塞いでしまっている。
ワガママを言うわけにはいかない。
「よし。いける?」
そうして慣れた手付きでカバンから吸入器を出した蓮が、これまた慣れた手付きで薬をセットする。
湊や恵たち他の奴らも俺のせいで吸入器の使い方は覚えているけれど、それでもやっぱり蓮は特別だ。
高校から同じになった奴らと違って、蓮とは中学から一緒だから。
みんなより少しだけ俺と過ごした時間の長い彼は、みんなよりずっと吸入が上手い。
「ッコホ、ゲホッゲホッ…」
ただ薬の準備ができても、俺の方の準備がなかなか整わなかった。
止めようとしても止まらない咳が怖くて、強く手を握りしめる。
喉がかゆくて、息がしにくい。
吸入するには少しでも咳を止めないと、なのに止めようとすればするほど息は苦しくなるばかりで。
「大丈夫。落ち着け、な?」
とんとんと、優しく背中を叩かれる。
穏やかな声色に強ばっていた体から力が抜けて、少しだけ、息がしやすくなった。
今ならいける、とその気持ちを込めて蓮の顔を見る。
自分のこと意外には鋭い蓮は、きちんと俺の言いたいことを理解してくれたらしい。
いちにさん、とすっかり慣れたかけ声と共に吸入が完了する。
少しすれば薬が効いてきて、多少の息苦しさと倦怠感が残るだけとなった。
「…どう?帰れそう?」
「ん。ッコホ、…ごめん手間かけて」
喉の違和感と体の怠さはまだ残っているけど、帰る分にはまあ大丈夫だろう。
ケホリと空咳を零すと、蓮は心配そうに眉を下げた。
「全然手間じゃないけど……おれがここに来なかったらどうするつもりだったんだよ」
「…別にどうするも何も。普通に自分で吸入して、マシになったら帰るだけだろ」
席から立ち上がりつつ、蓮の言葉にそう答える。
そんな俺の返事に、蓮はさらに眉を下げた。
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暁☆(プロフ) - ayahanaさん» こちらこそいつも優しいコメントありがとうございます! おかげでまだまだ続けられそうです (*´ `*) ぜひ今後ともよろしくお願い致します〜! (2021年2月13日 9時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます!まだ続けて下さるどころか頻度上がるかもということで凄く嬉しいです、次のお話も楽しみにしています! (2021年2月13日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - ayahanaさん» お待たせして申し訳ありません!こちらこそ読んでくださりありがとうございます〜<(_ _)> (2020年8月20日 7時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます! (2020年8月20日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - りんごさん» ありがとうございます!頑張りますね! (2020年6月23日 20時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2018年6月15日 20時