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湊side
恵が出て行った後、おれは海真に薬を飲ませるため声をかけた。
「薬飲める?」
「…んー、」
煮え切らない海真の返事。
…珍しいな、いつもなら熱があったって薬を渋ることなんてめったにないのに。
「このままだとしんどいままだから、ね?」
錠剤をシートから2つ押し出し、それから水の入ったペットボトルの蓋をゆるめる。
それを海真に渡せば、潤んだ瞳が控えめな上目遣いでおれの方へ向けられた。
「……のみたく、ない」
海真がここまでワガママなのは、初めてかもしれない。
いくら高熱が出ても、甘える……というか、ワガママなんて言ってこない海真。
ご飯だって食べてって言えばすぐ食べてくれるし、薬だって飲んでって言えばすぐ飲んでくれる。
病院だって行こっかって言えば素直に頷いてくれるし、そんなに熱が出ても喘息症状が出ても手のかからないのが海真だったはずだ。
──それなのに今、目の前の彼は薬を飲みたくないと駄々をこねていて。
「海真、薬苦手だったっけ?」
なるべく優しい声と笑顔を意識して、聞いてみる。
いつも海真は何も言わずに飲んでくれていたけれど、もしかしたら言えなかっただけで。
「…うん。ほんとは錠剤、のみこむのきらい」
やっぱりずっと、言えなかっただけらしい。
よくよく思い返してみれば、錠剤の薬を数個いっぺんに渡しても、海真はいつも1個ずつしか飲んでいなかった気がする。
小さく頷いた彼の存外子どもっぽい部分に、思わず笑ってしまった。
「そっか、そうだったんだね」
粉の方がいい?と聞いてみても、海真はふるふる首を横に振る。
粉も粉で上手く飲めないらしい。薬飲むのが下手なのか。
「うーん…でも体辛いの嫌でしょ?2錠だけ、頑張れないかな」
ゆっくり優しく、幼い子どもを相手にするように声をかければ、渋々ながらも海真は頷いてくれた。
2粒渡した錠剤の薬を、海真は例に漏れず1錠ずつ口に含む。
よく見れば確かに飲み込むまでにかかる時間が普通より長くって、何で今まで気付けなかったのかな。
「…のめた、」
そう呟き、チラリとおれを見る海真。
一瞬考えたもののすぐに海真の意図を察したおれは、彼の細い黒髪を優しく撫でた。
「うん、薬飲むの上手だね」
途端に猫のように目を細める海真に、思わず微笑む。
──普段は全然甘えとかワガママを言ってくれない海真。
今日だけは、いくらでもワガママ言ってくれていいから、なんてね。
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暁☆(プロフ) - ayahanaさん» こちらこそいつも優しいコメントありがとうございます! おかげでまだまだ続けられそうです (*´ `*) ぜひ今後ともよろしくお願い致します〜! (2021年2月13日 9時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます!まだ続けて下さるどころか頻度上がるかもということで凄く嬉しいです、次のお話も楽しみにしています! (2021年2月13日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - ayahanaさん» お待たせして申し訳ありません!こちらこそ読んでくださりありがとうございます〜<(_ _)> (2020年8月20日 7時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます! (2020年8月20日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - りんごさん» ありがとうございます!頑張りますね! (2020年6月23日 20時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:暁☆ | 作成日時:2018年6月15日 20時