2 ページ17
愁side
ごん、と鈍い音がしたのは、陵がトイレに入ってから数分したあとだった。
あわててトイレのドアを開ける。
ちょっと乱暴に開けてしまったけど、この際もうどうでも良かった。
「っ陵！？」
視界に飛び込んで来たのは、崩れ落ちたように壁に体を預けている陵。
ズボンはちゃんと履いていたことに安堵して、僕は彼の肩に手を置いた。
「大丈夫？立てる？」
ここで意識を飛ばされたら困る。
それは陵もわかっているみたいで、小さくうなずいてくれた。
熱い陵の手が、すがるように僕の手をつかむ。
荒い息をこぼした陵は、そのままぐ、と足に力を入れた。
「…っく、ちょっと、待って、」
ずし、と重たい陵の体が、僕の方へとかかる。
危うく僕が倒れそうになって──さすがにそんなことになったら笑えないけど──あわてて僕は態勢を立て直した。
「歩ける？」
そっと聞いてみるも、返事はない。
どうしたの？と顔を覗き込んだところで、頭が真っ白になった。
──陵が、声も上げずにぼろぼろと涙を流していたから。
待って待って、僕何かしたっけ、と自分の言動を思い返す。
心当たりがなくって、余計に頭が真っ白になって、ちょっと待ってよ、僕が泣きたいんですけど。
「りょーう、辛くなっちゃった？」
それでも相手は泣き虫赤ちゃんと化した病人なわけで、僕がどうにかしなくてはいけない。
優しく優しく、いつもだったら絶対出さないような甘い声で、陵に笑いかける。
彼はちらりと僕を見て、それからプツンと糸が切れたように体の力を抜いた。
え、と思う間もなく、支える暇もなく、二人仲良く床にへたりこむ。
「…あるけない、ていったら、おこる…？」
涙声でそんなことを言ってくる陵に、いつもの面影はどこにもない。
ぽたぽたと彼の瞳からこぼれた涙が、床に吸い込まれた。
「……怒んないよ」
ちょっとだけ呆れて、でもそれが陵に伝わらないように、笑って返す。
いつもはわざと僕を怒らせるような、むかつく態度をとってくるくせに、発熱した陵の心はだいぶ弱っているらしい。
「てゆーかそんなの、普段の陵の態度より全然可愛いもんだから。だから泣かないの」
ね、と笑ってみせる。
陵は驚いたように目を瞬いて、それから安心したように微笑んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 212人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
暁☆(プロフ) - ayahanaさん» こちらこそいつも優しいコメントありがとうございます！ おかげでまだまだ続けられそうです (*´ `*) ぜひ今後ともよろしくお願い致します〜！ (2021年2月13日 9時) (
レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます！まだ続けて下さるどころか頻度上がるかもということで凄く嬉しいです、次のお話も楽しみにしています！ (2021年2月13日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - ayahanaさん» お待たせして申し訳ありません！こちらこそ読んでくださりありがとうございます〜<(_ _)> (2020年8月20日 7時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
ayahana(プロフ) - 更新ありがとうございます！ (2020年8月20日 0時) (レス) id: a867efffe4 (このIDを非表示/違反報告)
暁☆(プロフ) - りんごさん» ありがとうございます！頑張りますね！ (2020年6月23日 20時) (レス) id: f1423fd483 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：暁☆ | 作成日時：2018年6月15日 20時
