1050年の時をこえて実った恋物語～終わり～ (ページ32)

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∽ 脈打ツ　それハ期待カ高揚カ　その四 ∽ ページ32

「く………っ！！」

目が覚めると、そこはのどかな朝であった。
乾いた口から出そうになった言葉を静かに飲み込む。
なんだって？
葛の葉と言ったの、あの人。
……どういうことよ。
私が、なんで、妖怪の………。
いや、待って、それよりも、あの人……！

「私に……、……似てる…？」

あの目の色と髪――そっくりと言ってもおかしくはない。
そう――。
血が繋がっていると言ってもいいほどに。

「先祖………篤志ッ……！！」

先祖がいる部屋に走って向かうと、そこに先祖が飄々とした態度で出迎えた。
いつもと変わらない、その態度に、私は冷静になっていた。
私には、怒りとか、そういう衝動がある訳じゃない。
ただ――。ただただ、そう――。

「どうした、A。朝食は出来ているそうだ」
「……うん」
「………何かあったのか」
「…………――私は葛の葉に似てるの？」

私は、静かに訊ねた。
飄々としていた先祖は、静かに微笑みながら、そこには驚きもあったが、パンッ――と扇を開き風を自分の顔に送る。
しばらく沈黙が続く。
穏やかな縁側の先の池で、鯉が跳ねた。

「ああ、俺の母さんに似てる」
「ならば、向こうの目的は明確ですね」
「……ほう？」
「私を向こう側に引き入れたいのでしょう？」
「………………かもなー……」

ぱちん。
扇を閉じて、先祖は扇で自身の頬をぺちぺちと叩く。

「……玉藻前」
「！！！」

目を見開いて驚く先祖に、私は淡々として答える。
私の中に怒りはない。
だってこれは、誰の責任でもないのだから。

「私の血は葛の葉の血を多く受け継いでいる。そして、その記憶に出てきたのは玉藻前と……それから炎華という妖怪」

これは宿命なのだ。

「その炎華という妖怪は、私が好きな人に似ていました」

そして、運命でもあるのだ。